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【読書】クララとお日さま

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あのノーベル文学賞のカズオ・イシグロの受賞後の初作品。
前の「わたしを離さないで」に関して,今ここで触れる事はしないが,今回の「クララとお日さま」も同じような近未来の設定のSFらしき小説。もともと私はSFはあまり好きではないのだが,このクララ…に関しては,なぜかすーっと読んでしまった。ここが作者の上手なところなんだろうと思うが,なんかよくわからないけどこんな事なのかなぁ…と勝手に想像して読み進めるようなストーリーになっている感じ。

私は最初,昔はやった鉢植えのヒマワリが音楽がかかると踊り出す置き物の人形の話なのかと思って読み始めた。だんだん読み進めるうちに,ああこの話はドラえもんみたいなロボットと人間が共存する世界を描いているのだとわかりだす。そのロボットをいっぱい並べて販売しているショップの中の様子から物語が始まる。その店には色々なタイプのロボットが置いてあり,人間がやって来ては子供の    パートナー的なロボットを親と子で選んで行くのだ。

クララはロボットのバージョンから言うと最新ではない。ただし前のバージョンの中では大変優秀な類に入るようで,自分のご主人様?パートナー?の幸せだけを求める。(ドラえもんはのび太を懲らしめてやろう的な面もあるが,このクララは純粋に幸せになって欲しいという事だけ突き詰めようとし,どんどん能力も進化していく)

ジョジ―という女の子に買われたクララ。このジョジ―は,この世界で常識になっている,「何か」の処置を受けて本来よりも学力的な能力を高める事が出来ているようだ。その何かも詳しい説明はなく,多分そうなんだろう…と自分で想像しながら読み進める。そのジョジ―の隣に住んでいる幼馴染の男の子は,その処置を受けておらず,そのため大学には受け入れてもらえない感じ(全国で5%だけ処置をしていない子供を受け入れる学校もあるようだが,とんでもなく狭き門である)

しかし,その処置を受けると,健康に大きな支障をきたす場合もあり,中には亡くなってしまうような場合もあるようだ。はっきりは書いていないが,どうもジョジ―の姉はその処置を施した結果亡くなった感じ…。

話が進んでジョジーはどんどん具合が悪くなる。普通の生活が出来なくなるレベルで寝込んでいる。そこに来て母親がクララを買ったのは,ジョジ―と全く同じ考え方動きをするロボットを作ろうとしているのだとわかってくる。母親は,クララには徹底的にジョジ―を研究しなり切るように求めるような態度行動を取るようになり,その話を一緒に進めている科学者もどきの人も「絶対に大丈夫」みたいな話になってくる。

クララは必死にご主人様の願い・命令をかなえようと健気に努力し続けるのだが,ここで抜本的な解決方法(自分がジョジ―の代わりにならなくてもいい様になる=ジョジ―が元気になる)を自ら考え実践しようとする。その方法は,まずクララが絶対的な信頼・信仰しているお日さまの力を借りなければならない,その力を借りるためにはお日さまに貢献しなければならない,そのためには自分の身を削るという決断も必要だが,クララは何の迷いもなくジェジーのためにわが身を捧げる。(ある機械を動かなくすることでお日さまに貢献しようとするのだが,そのためには自分の体内にあるオイルを抜いてその機械に使う事で,機械は壊れるがクララにも重大な支障が出る)

クララの知恵と努力と献身でジョジ―は病気を克服し,大学に行くために家を離れる事になる。クララはどうなるのだろう…(きっとずっと家に置いてくれるよなぁ…)と思って見ていたら,次のシーンでは多分ゴミ捨て場の様な所に捨てられてしまっている。そこで一番最初に自分が販売されていた店の店長と出会う。店長は定期的にこのゴミ捨て場を訪れ,昔自分が手にかけて育て送り出したロボットとの再会をしている様子。「私は幸せでした」と迷いなく語るクララ。涙なしでは読めないシーンだ。

他にも色々な人物が登場してくる。ジョジ―のお父さんは最初は花形の職業だったのが何らかの理由でリストラされ,リストラされた者が集まる職場で働いていて嫌気がさしているが働かないと生活が成り立たないので我慢している。幼馴染のお母さんは昔はとてももてていたようで,自分の息子の入試に関してその決定権を持っている男が昔の彼氏だったという事を利用し押し込もうとするが…。とにかく近未来では本当にこんな事が起こっているのだろうと想像しながら読ませてしまう作者の筆力はさすがというしかない。そしてそんなドロドロした世間の中で,クララの純粋な献身的な奉仕。

この物語の最大のテーマ。人間が人間としての尊厳を持って生きるという事をロボットも実現できるのか…。研究者は「間違いなく出来る」と言う。何も問題ないと。ただクララは,頑張ればコピーできると思うが…と言いつつ,「結果的にその人の心の中にある事までは何とか真似が出来たり想像できたりするが,それは違うと思う。その人の回りにいてその人の事を愛している・想っている部分は,どうしようもない」と。この部分とても深くて,読み終わってもずっとこの事を考えています。 そしてみんなの感想を聞いてみたい…と思います。ぜひ皆さん読んでみて下さい。

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