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【卒展2024 Making Process】#06 図録制作


卒業制作展2024への来場、図録の購入ありがとうございました。
今回は図録の制作プロセスについてご説明します。

今年の図録は、統合デザイン学科の卒業生で、編集者としても活躍されている西山萌さんに編集と企画をしていただきました。
図録を制作するためのテーマが、最終的には卒業制作展全体をあらためて考え直すことに繋がり、今までにない取り組みへと繋がりました。

1. 何をアーカイブするべきか

西山萌さんに図録の方針について、ご相談した際「統合の変革期を記録する図録にできないか」、「学科によるラベリングではなく、『こうした人たちがいるから統合なんだ』といえないか」というご提案をいただきました。

ただ作品、ステートメント、プロフィールを載せるだけの冊子ではなく、「自分たち自身」をアーカイブするメディアとして位置付けようと、図録制作ははじまりました。

以下、図録の「アーカイブすること」の文章を一部抜粋します。

現在、私たちが当たり前に生活しているこの社会は、一見するとすべてがこれまでの積み重ねで成り立ち、常に進歩しているように思えます。
 過去に成し遂げられたことは当然未来でも再現可能で、時が進むほど発展してきたと感じてしまいます。
 しかし実際はこれまでに生み出され、培われてきた技術や文化のほとんどは、変化していく時代の過程で失われ、ほんの僅かしか残っていません。
(中略)
 私たちは入学とともに世界的なパンデミックに直撃しました。(中略)顔の分からない同級生、オンラインでの講義、コミュニケーションの前提が変わっていく中で大学生活が始まりました。そして、キャンパスにも慣れはじめたきた3年次に校舎の建て替えがはじまりました。慣れ親しんだ教室や食堂、中庭までなくなり、制作の習慣も変わっていきました。これまで当たり前にあったものが、一度に失われていく様を身をもって経験し、今、何が残り、何をどのように、残していくべきなのかを考えなければいけないと思い至りました。
 その上で卒業制作展図録を再構成することとしました。従来、図録は卒業制作の作品集として機能していました。しかし卒業という節目で図録を制作するという行為は、ただ作品を収録するだけでなく、いつか忘れ去られてしまうであろう今のわたしたちをそのまま形に残せる可能性を持っていると考えました。統合デザイン学科が設立10年目を迎え、上野毛キャンパスの建て替えという大きな変化を迎える今の私たち、取り巻く環境をアーカイブし、未来に引き継ぐ役割として新たに位置付けました。

こうした思想のもと、図録を制作しました。

2. 表紙のデザイン

ビジュアルコンセプトである「点・線・面」を元にデザインしました。
離れて見ると線や面のように見えても、近くで見るとひとつひとつ独立した点として見える。
小口と表紙にそれぞれ異なる大きさ、間隔のドットを印刷し、向きに応じて点の見え方が変わるようにしました。

ドットの大きさも検証し、ビジュアルのトーンを崩すことなく、線の要素を伝えられるものを目指しました。

また色においても「点・線・面」の要素を取り込むため、3色カラーバリエーションを用意し、一冊で見るときは単色、重ねて見ると今年のビジュアルのカラーになるといった並べたときの変化をつけました。

こうしたビジュアルの意図から、大きく平たい冊子よりも物体としてまとまりが感じられる方が「点」として意識しやすいのではないかと考えました。
従来よりも図録の大きさをひとまわり小さくし、図録に厚みを持たせ一冊の存在感がより伝わるようにしました。

3. 本文のデザイン

自分たちをアーカイブするという目標、「点・線・面」というコンセプト両方を加味し、学生のまとめ方についても再考しました。
従来と大きく異なるのは以下の2点です。

  • 所属プロジェクト、作品情報は作品の写真とは並べず、巻末にまとめる。

  • 作品情報と一緒に「Design Q&A」を掲載する。

これまで図録では、作品とともに所属プロジェクトが掲載されていました。しかしプロジェクトや使用ツールでラベリングせずとも、作品だけで十分自分たちを表せるのではないかと考えました。限りなく文字情報をなくすことによって、学生同士の境界を曖昧にし、「点・線・面」と見え方が変化するように、見ている人自身が自ずと繋がりを見出す構成としました。

また、図録の大きさを小さくした一方で、作品は大きく見せたいという希望もあったため、文字情報を減らした分作品の写真を大きく掲載できるのも採用した理由の一つでした。

巻末には全学生の作品情報、Q&Aを一律に並べています。作品ページでは学生のラベリングを避け、匿名性を帯びていたのに対し、巻末ページでは学生の思想やデザインに対する考え方において、違いがわかりやすくなるよう設計しています。

最後に

これまでの図録とはまったく異なるレイアウト、ページネーションですが、「学科によるラベリングではなく、『こうした人たちがいるから統合なんだ』」といえる図録を目指し制作しました。

製本に関し、5月はじめから篠原紙工様に大変ご協力いただきました。複雑なデザインコンセプトに対し、何度もヒアリングを重ねてくださり、費用の面でもかなりの支援をしていただきました。
また、西山萌さんには図録の相談だけでなく、ご飯会、ワークショップの開催、編集後記まで担当していただきました。西山萌さんなしには今年の図録のみならずこのような卒展の開催はなかったと思います。改めて感謝申し上げます。

また、図録の制作、発送作業など多くの在校生のみなさんにお手伝いいただきました。本当にありがとうございました。

この記事を見て少しでも図録が出来上がるまでのこだわりや意図を感じ取っていただけましたら本望です。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

図録班長
藤井菫

図録班
有本怜生、郭洋希、青木夏絃

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