『永遠の灯』(アイカツ!)と『HEAVEN'S RAVE』(Tokyo 7th シスターズ)とハーモニックマイナーとフリジアンドミナントと異化の話〔文字起こし〕


◉マクラ

元気?

ほんとに元気?

ああ、元気そうでよかった。その顔が見たかったんです。死ななくてよかったね、お互いにね。

人は癌になったりスズメバチに刺されたりして死にますが、皆さんの日々はいかがでしょうか。少なくともこうして、動画越しだとしても相対できて、嬉しく思います。

私の紹介なんかはもういいよね。音楽です。音楽やってますっていうか、音楽です。

今やってるParvāneという名義の1stアルバムが、去年の11月末に完成したので、その間何をやってたかというと、今度はコンパクトなやつを出したくなって。3曲入:総尺14分くらいのやつを出したくなって、それの制作をやってまして。

レコーディング・作詞・作曲ぜんぶ終わり、ミキシングもあらかた終わったんですが、今、外部の人に演奏をお願いしてるトラックの納品待ちと、年度末の有給の消費があるということで時間ができまして。久々にこうして、動画撮ってみようかと思いました。

やることは楽曲分析なんだけど、何故これをやろうと思ったかというと、

次に出る音源の作曲をやってたときに「やっぱこういうことだよね」って、今までいろんな音楽を聴きながら、そして自分の音楽も作りながら、「やっぱこういうことじゃんね」ってことが、ピーンと紐付いたので、今回分析対象とする2曲も合わせて、話してみようと思います。

やることは分析なんだけど、本領は、実は作曲です。他人の曲を俎上に乗せるんだけど、最終的にこの動画をお届けする対象というのは、

いろんなカバーができるようになったと。作曲の分析もコード進行も、理論も機材の使い方もだいたいわかってきたけど、自分の作品を作るにはまだ早いかな、みたいな感じの人たくさんいらっしゃると思うんだけど、その人にいちばん届けばと思ってます。

それは最終的にこの動画の行き着くところで明らかになるので、もう早速始めようと思うんですが。

『永遠の灯』と『HEAVEN'S RAVE』という2曲を、これから主に、コード的にではなくモード的に分析します。この2曲の共通項は、「E♭キー」「フリジアンドミナントおよびハーモニックマイナー」

そして一番大事なのが「コードよりもモード」ってことなんですけど。

幸い2曲とも、公式にギャランティーが入る方式で聴けるので。リストの リンクをキャプションのほうに貼ってあるので、

この動画で取り扱う音源は、初めて聴く人も、何回目かって人もとりあえず聴きにいってください。

◉『Pop Assort』事件

じゃあ聴くの2回目以降の人にちょっと話しようかな、とくにCD買って聴き込みましたって人。

正直ビックリしたでしょ? 音質良くなってるでしょ。明らかにね、リマスタリングされてますこれ。

CD用じゃなくて、明らかにサブスクリプション用にリマスタリングが行われたと思うんですけど、明らかにCD収録版より良くなってるよね音質が。

『永遠の灯』って曲は、この『Pop Assort』っていう、2014年6月に出たCDに収録されてるんですが……

このアルバムが、『Pop Assort』事件というもので有名なCDで。ちょっとね、日本のポピュラー音楽の流通史上、類例を見ない珍事が起こったアルバムなんですよ。何かというとね、

これ勿論メジャーのアルバムですよ。発売日に全国のスーパーとかタワレコとかに並ばなきゃいけない商業作品ですよ。

なのに……あのね、マスタリングエンジニアのクレジットがされてないの。

商業音楽よこれ。同人とか自主制作のデモテープとかじゃないよ。何故かね、他のCD全部マスタリングエンジニアのクレジットが有るのに、これだけ無い。で実際聴いてみると、本当にそういう内容になってる。音圧っていうか、音量が違うんですよ1曲ごとに。

もちろん内幕なんか知らないから、推し量るしかないんですが、たぶん……これ、いろんなコンポーザーさんに依頼して納品してもらってるってシステムだから、たぶんレーベル側がこういう感じでね、

「すいません、提供していただいた楽曲がCDに入るんですけど、ちょっと工程の時間が足りないんで、

そちらのスタジオでマスタリングまで終わらせた音源を1曲ずつ送っていただけませんか?それもうプレスして出すんで、お願いします」みたいなことがあったんじゃないと、こういうふうにはなんないよ。こんなのは無いですよ、日本のメジャー音楽史上。

これが『アイカツ!』っていうアニメの2年目の劇中で使われる楽曲なんだけど、この2年目自体が、だいぶ屋台骨がガタガタきてた時期なんですよ。

私このCD買ったときは、半ば盲目的なファンだったけど、にしても薄々わかってましたよ。アニメのほうもね、1年目の終わりで思いつきで出した要素とか、2年目で「そうだな、これからはライバル的な存在も出さなきゃな」っていうのがどんどん上滑りして、どんどんツルツル滑って終わっていく様をね、さすがに感受してましたよ。

なんていうかね、弁証法ですらないっていうかね、「他者」が存在しない世界なんですよ、『アイカツ!』2年目までは。正・反・合ですらない、正・正・正みたいな。

なんだろうね、それと打って変わって、やっぱ反省があったんだろうか。3年目以降と、続く『アイカツスターズ!』の2年間はとても素晴らしい、もう他者しかいない世界になってましたけどね。

『アイカツ!』が正・正・正だとしたら、『スターズ!』はリー・リー・リーなんですよ。ピンチランナーの闘志ですね。

「お前がどんな牽制をふっかけてこようが俺は絶対にホームベースまでたどり着いてやるぞこの野郎」みたいなね、この眼光鋭いピンチランナーのね。

あまりにも眼光が鋭すぎて、放送当時は「ちょっとすいません、無理ッス」って人たちが続出したんですけどね。

『アイカツ!』が正・正・正で、『スターズ!』はリー・リー・リーです。

……なに言ってんですかね? じゃあもう音源聴いたんでしたね、そういえば。

だからね、明らかにリマスタリングされてるんですよ。さすがにこれはないよって思ったんでしょうね。

このランティスってレーベルを悪く言ってもしょうがないんだけど、非常にね、音質に気を遣わないことで有名で。これの制作に携わってるMONACA・Onetrapって会社どちらも素晴らしいんだけど、マスタリングでダーンってダメになることをずっとされてきた、っていうシリーズです。

例えばね、ご飯で言うならさ、お米買ってきました→炊飯器でほかほかに炊けました→きれいに盛りました→塩酸かけました。めしあがれ、みたいなね。最後の工程さえなければ美味しく食べられたのになあ、みたいなね、塩酸茶漬みたいな音源を喰わされ続けてきたんです、『アイカツ!』のファンは。

まずね、子どもたちに有害です。可聴域って、上のほうから削れていくらしいんですよ。逆に言えば老けてても低音は聞こえるらしいのね。

それならば、小さい子たちは、20~30台の人間が聞こえてるような音域よりもクリアな、とくに高音まで聞こえちゃってるんだから、

ブッ潰れた音圧のマスタリングで聴かせちゃあ耳悪くなるよ、っていう。すごい普通のことを言っちゃいましたね。

◉『永遠の灯』佩刀1:E♭メタリカスケール(とは何ぞや)

じゃあ分析入りましょうかね。

この『永遠の灯』っていう曲は、先輩みたいなのがいて。『硝子ドール』っていう曲なんですけど、それがMONACAの帆足さんていう、バークリー出てる人が作った曲で。それがえらい評判になったのね、1年目で。

非常にゴシックな、ソナタ・アークティカとかストラトヴァリウスとか……というか『Load of the Wasteland』のリフがほぼまんま引用されてる曲なんだけど。

それで「まさか女児向けアニメでこんなネオクラシカルメタルが聴けるとは!」みたいな感じで、なんか、普段主にメタルを聴いてる面倒くさそうな人たちが、面倒意外にも色々くさそうな人たちが寄ってきてね、すごいすごいって評判になって。YouTubeのその曲だけの再生数がえらい上がったって経緯があるんですけど。

その1代目『硝子ドール』のあとに、この『永遠の灯』って曲はOnetrapっていう別の会社の、南田健吾さんという方が作って、Integral Cloverってチームが編曲したやつで。つまりね、いくつか違いがあるんですが……

先に言っちゃおうか。この『永遠の灯』で使われてる理論的な特徴は、実は王道ネオクラメタルをやってる先代の『硝子ドール』よりも、別の意味でちゃんとヘヴィメタルを継いでる理論が活かされてるんですね。でも音源聴いて貰えば分かるとおり、メタルって感じではないでしょ。

打ち込みが多いでしょ、主にね。deadmou5ですか? DE DE MOUSEとの区別がつかないくらい聴いたことないんですが、私は。それが元ネタとして挙げられるくらいの、4つ打ちで、ダンサブルなEDMですよね、この当時のね。

じゃあ早速入りましょうかね。イントロこんな感じでしたね。

って感じの4小節でしたよね。この曲、まず最初に、E♭マイナーキーです。

イントロの非常に禍々しいリフは、ルートと短2度の音に行ってるんだけど。この短2度は、長・短調どちらにも入っていない音です。3、6、7度ですよね、長・短調の違いは。それが半音上がるか下がるかなんですが、この2度は長・短調どちらも長なんですよね。ルートから全音上ってところで、マイナーだろうがメジャーだろうが同じなんです。

ところがこのダーダダッていう不穏な音は、本来どちらのプレーンな長・短調どちらにも入っていない音である、っていう。

それがもうひとつあって、減5度(♭5)ですね。これと短2度がどちらも出てくるっていうこの特性を、メタリカスケールと呼んでいらっしゃる方がいて。私もそれに倣うことにしますが。メタリカスケールです、『永遠の灯』のイントロで使われているのは。

そしてほぼ1曲通して律しているのはメタリカスケールなのですが、実はそれは佩刀のひとつにすぎなくて、実は二刀流なんですね、この『永遠の灯』は。

もうひとつ使ってるわけですよ。片方にはメタリカスケールが握られてます……で、そのスケールの話をしなきゃダメだね。

あの人たちの楽曲の9割っていうか、『Master of Puppets』はほぼ全部やってないか? って思うんですが、その特徴は、まず普通のナチュラルマイナーキーの7音に加えて、短2度と減5度が入ってるわけですけども。

不穏な音であるっていうのは聴いてもらえばわかるんだけど、この♭5のほうは『Black Sabbath』の単音リフの3音目ですね。

ちょっと不気味で、ホラーっぽく聞こえる曲を作りたければ、♭5はもう使わないほうがおかしいってくらいで。王道です。何もおかしくないです、この♭5が入ってるってこと自体は。

何も珍しくないんだけど、『永遠の灯』が採用してるこのメタリカスケールとは何ぞや? っていうのは、まずね……聴いてもらったほうが早いでしょう。

『Orion』から抜粋しましたが、この曲、基本はEmキーです。なんだけどベースラインは、Emキーの曲のはずなのに、Fが一瞬入るでしょ。

でも上のほうのギターは、Emのダイアトニックから外れてませんよね。AmとEmとCだからね、まんま入ってるわけでしょ。

「なるほど、Emキーの中で短2度のFが入っているんだな」と簡単に諒解できると思うんだけど、ここはね実は、もっと別に考えてもいいわけです。

このセクションに入ったときだけ、4度上のAmキーに部分転調してる、って考えればいいわけです。そうすれば全部収まるでしょ。EmキーとAmキーの違い、Fが#してるかそのままか、だけでしょ。1音違い、近親調というやつですね。

それを混ぜて使うことはJ-POPでも何でも、音楽理論知っていない人でも耳が慣れてるから、自然に使っちゃうんですよ。

だから近親調のFの音、アヴォイドノートを借りてるんだなって思ってもいいし、多分ね、クラシックの理論が入った先生に、「このメタリカの曲すごいと思うんですけど、なんですごいのかよくわかんないんで説明してもらえますか」って聴かせたら、「ここの部分だけAmキーに行ってるんだよ。そこが特異に聞こえるんだね」というふうな説明をすると思います。

でも……そしたらね、和声学の理論だけでいいじゃんって話になるよね。部分転調ですって言えばいいわけで、メタリカスケールなんて言い方を何故しなきゃいけないかがわからなくなるでしょ。ここが、今回のテーマです。

いま言った部分転調だと捉えるならば、それはコーダル(和声的)な音楽解釈であって、それとは別に……

私は、これはEという中心音から始まった、和声的な面ではなくて、別の音の列を使ってるだけですよっていう線的なほうに、考えたいと思ってるんです。

これは、今回の動画で主に使うトピックの中で一番重要なところです。

で私は、最終的にはコーダルではなくモーダルなほうに希望を見出したい、というふうに理論を持っていくんですが……

まあ、いいでしょう。ここはわかったね? メタリカスケールとは何ぞやっていうのは。それが『永遠の灯』のイントロでも使われてます。

その2小節後にこれが出てきますな……

◉『永遠の灯』佩刀2:E♭ハーモニックマイナー

これが、別のスケールでございます。E♭のハーモニックマイナースケールです。

ハーモニックマイナーは、ナチュラルマイナーキー(短調)の音の並びの、七度が短から長になった音です。これもメタリカスケールと同じように、何も特別で真新しいことではないんですが……

これ4小節ですよ、まだ4小節しか分析対象にしてないんだけど、ここで何が起こってるかというと、

さっき言った、E♭メタリカスケールと、E♭ハーモニックマイナースケールの二刀流です、『永遠の灯』さんは。

それが冒頭の4小節で共存することによって何が起こってるかというと…… D♭ - D - E♭ - E - F っていう5つの半音が、1曲の中で矛盾・違和感なく共存してるっていう事態が発生するわけです。

これ、もっと驚いてください。

これは何も前衛ぶってこういう作曲にしたのではなくて、使ってる道具はもう名前わかってるでしょ、メタリカスケールと、ハーモニックマイナー。

それを交互に使ってるだけで、このね、調性があやふやになるわけですよ。ダイアトニックというのは、ルートから数えて7音を最少構成単位として和声を作っていく考えだから、こんな半音をちまちま入れられてしまうと、もうどの調だよって言いたくなっちゃうわけですよ。

でもね、この曲は当然ポップスでありダンスミュージックでありますから、なにも前衛ぶって無調に聴かせたいわけでこういう作曲にしているわけではないのです。

◉D♭ D E♭ E F:二刀流による半音の同居(しかし無調を指向しない)

シェーンベルクが弱いな、間違ってるなって思うのはこういうことで。

メタリカスケールとハーモニックマイナーという別のモードを二刀流で使うことによって、単なる無調には聞こえない、別の秩序が交互に現れては退散していくふうな理論になってるわけです、『永遠の灯』は。

これの話をまともにしようと思うとね、この本『チャーリー・パーカーの芸術』に載ってる、平岡正明がシェーンベルクを批判してる文章があるんだけど、これが素晴らしいのよ。

「シェーンベルクの12音技法よりもペンタトニックスケールの方が強い」ってことを書いてるんだけど、それはね音楽に関して物言いたげな人であれば言えちゃえる理論ではあるんだけど、その納得のさせ方がすごいのよこれが。

単に無調に行ったら前衛っぽくてかっこいいのかもしれないけど、この『永遠の灯』という曲は矜恃を持ってますね。それがわかるのが最初の4小節なんだけど。

この4小節だけを取り扱ってるのは、この4小節に『永遠の灯』という曲の理論的な妙味が詰まっていると言っても過言ではないからです。

さて、道具の説明は終わりましたね。メタリカスケールとハーモニックマイナーの二刀流です。それが組み合わさることによって、D♭ - D - E♭ - E - F そしてさらに、当然これマイナーキーの曲だから、短3度であるG♭も入ってますよ。合わせたらもう6音ですよ。ただ……伏線です。

Gまでは行かない。長3度であるGは出てこない。何故でしょう? って話なんですが、これが『HEAVEN'S RAVE』に繋がってきます。

『永遠の灯』のボーカルワークは本当に素晴らしくて、Onetrapって会社には、Vocal Contractor って役職の人たちがいるらしいです。

そりゃあそんな人たちがついてたらこんくらい良くなりますよねえって感じのところがいくつも入ってます。たとえば、Aメロの「出てこないの」が、♭5のおぞましい音を経過音で踏んでます。

それと同じようで違うところがひとつあって、サビ直前。「君が望むなら」から全音上がるじゃん。あれが「ら」が完全4度なんだけど。

ギタリストなら解る、ベンディングですね。切れ目なしに上がっていくっていう、それができますよね人間の声でも、弦楽器でも。

これがなぜ効果的かというと、完全4度から全音ベンドして、完全5度に行きつきますねあのメロディは。

全音上をなだらかに上がる過程において、ブルーノート(♭5)を経過するからです。それが一番ルートと響き合わない音程であって、ペンタでソロ取るときは誰でもやります。そしてこの南田健吾って人はファンクのギタリストらしいです。多分ね、ギタリストらしい耳の良さだと思うんですよ。

そしてさらにもうひとつ重要なこと。これはファンキーな人が作った曲であって、ダンスミュージックであることが、さっき言った『硝子ドール』とは違うって話とも噛み合ってきます。

まとめますかね。この『永遠の灯』って曲は、最初から最後までメタリカスケールとハーモニックマイナーの二刀流でやってる曲なんですけど、

それが混ざることによって、さっき言った変な半音の同居があらわれているし、そして単なる短調というものを異化しているわけですね。

異化、っていうワードはこの動画の最終的に行き着くテーマになるので、これ以上は言いません。

そしてさっき言いましたね、でもE♭から数えて長3度であるGは入ってこない、何故でしょう? って話が『HEAVEN'S RAVE』に繋がります。



◉『HEAVEN'S RAVE』佩刀1:コード進行内に組み込まれたE♭ハーモニックマイナー

『HEAVEN'S RAVE』聴きましたね。かっこいいでしょ。この曲はもう音質も良いでしょ、文句無しでしょ、ランティスと違ってね。

さすがVictorから出てますねえ。さすがRHYMESTERの所属事務所ですねえ。音質にもこだわりがあるっていうのが伝わってきます。

……音源聴いてきてもらったけどさあ、この『HEAVEN'S RAVE』が使われる予告編が上がってるんですけど、面白そうだったでしょ。

Tokyoていうタイトルが付いてる作品の中で佳境を迎えて、今まで「周縁」と見做されてきたであろう「地方」の人たちが決起して、「中央」のやつらと組んず解れつの乱戦を演じるのだ! っていう、一番面白い展開でしょ? 三国志でいえば荊州でドンパチやってた頃でしょ。

これは絶対何かだぞ、って思うでしょ。私もそう思いましたよ、九州の人間だし。すごい期待したん、です、けど、ねえー。

言うとね……あなたが、あの予告編を見た興味深さの、1%も、そのシナリオは、報いてはくれません。

全話読みましたよ。実はね、『HEAVEN'S RAVE』の音源が入ったCDにボイスドラマが入ってて、それ聴いただけで「やっちゃってるな」っていうのがわかっちゃうんですね。

どういうやらかし方かというと、悲惨で鬱々としたものを生のままでゴロンと出して、これがリアルでしょ? って、そういうね。

リアリズムを履き違えた、暗黒微笑を下げてるくせに肝心のところで体力と知力が欠けてるみたいな感じなんですよ。

たぶんシナリオの動画のほうもあるから……見てきたらいいんじゃないですか。筋トレしてる最中に聴いたらいいんじゃないかと思います。その時間長く感じるか短く感じるかは、その人によって違うでしょうけどね。

分析いきますか。非常に印象的に使われるディストーションチェロみたいな音が、『永遠の灯』のイントロと全く同じ音、キーも同じだっていうのはもうわかりましたね。

これもメタリカスケールか? と思ったら、実は違うんですね。それよりも先にコード進行の話をしようか。

この曲は私、音源出たとき、 Off Vocalのほうを何度も何度も聴いてました。なぜかというと、このコード進行があるんだけど、サビの一番最初です。コード譜で書けば、B△7 - B♭augということになろうかと思うんですが、これの構成音の動きを考えればわかるんだけど、B△7が B - E♭ - G♭ - B♭ B♭augがB♭ - D - G♭ - B♭ ですよね。

ルートと三度だけが、そのまま半音下がってるわけ。たぶん3度がトップノートになってるから、聞き取りやすくなってて。

それがね、まあカッコいいわけ、ここが。なぜかっこいいかというと、E♭mキーであれば、7度は当然短(D♭)であるはずですが、これB♭aug行ってるから、Dなんですよ。ルートから半音下がってるから、ハーモニックマイナーってわけなんですよ。

あっ同じだ『永遠の灯』と、ってことになりますね。

◉『HEAVEN'S RAVE』佩刀2:E♭フリジアンドミナント a.k.a. トゥレレ↑

実はこいつも二刀流です、『永遠の灯』と同じで。その道具が何かというと。

限られたパートの一瞬だけしか入らないから、聞き逃されちゃうかもしれないんだけど。E♭のフリジアンドミナントが入っております。

フリジアンドミナントとは何かって解説をするには、私が何年も前に書いたトゥールの『Forty Six & 2』の分析『がブログに書いてあるからそれを読んでいただきたい。

もう構成音を言いましょうかね。ルート・短2度 まで来て、次の3度が長です。つまり2度から、全音+半音離れているということです。

短調にしろ長調にしろ、調性っていうのは、半音か全音かの開きしか無いから。それでオクターヴ内部の秩序が生まれるってコンセプトが調性なので、半音みっつぶん空いてるってのは無いよ!って話なんですよ、このフリジアンドミナントはね。

で、それの長3度から半音上がって、完全4度・完全5度・短6度・短7度 っていう構成音です。

このフリジアンドミナントの音聴くとみんな、「エキゾチック」とか「エスニック」とか言っちゃうんですね。

そういう言葉は、ソフト差別用語だから。言わないでほしいですね私は正直。

あっ言ってなかったね、Bメロの中で「トゥレレ↑」っていうシンセの音が入ってるんですよ。

これが聞き逃されても仕方ないんですけど、ラップしてるところで、「トゥレレ↑」っていうのがこっそり入ってるんですけど、それがフリジアンドミナントのE♭ - F♭ - G 「トゥレレ↑」です。非常にさりげなーく入っています。

これが、私が『HEAVEN'S RAVE』はE♭のフリジアンドミナントというもうひとつの刀を履いている奴だと言う所以です。

さっき言った、フリジアンドミナントだからといって「エキゾチック」とか「エスニック」とか言うなよって話は、まあ、無理もない話でさ。

フリジアンドミナントスケールは、ギリシアっていうか地中海あたりの民謡で多用される音階だからです。一番有名なのが『Misirlou』ですね。あれもともと民謡です。

なので「エスニック」とか言わずに、「アレクサンドリア感」って言ってほしいですね、フリジアンドミナントを聞いたらね。

ギリシアとインドとアラビアと、3つの要素が、それぞれ純粋なものとしてではなく、混ざり合ってる感ですね。それがフリジアンドミナントのアレクサンドリア感です。

なんでこんなことを言うかというと、この動画作る前に、さすがに世の人がどんな感想持ってるか気になって検索してさ、ブログ記事が出てきて。

『HEAVEN'S RAVE』についての言及で、「ラップのところでシタールが入ってるんですね、珍しい」っていう指摘があって。

えっどこ? と思って聴き直したら、右の方に小さい音で、オクターヴ上の「トゥレレ↑」が入ってます。

さっき言った低いほうのシンセのオクターヴ上の音で「トゥレレ↑」がシタールの音で入ってるわけです、インドの楽器で。

だから言ったでしょ、アレクサンドリア感と。単に「アラビア感ありますね」「ギリシアのですよね」みたいな感じじゃなくて、色々混ざり合ってるこの、フリジアンドミナントの妙味を要約するものとして、「アレクサンドリア感」と言っております。これから皆さんもそれを使ってください、エスニックとか言わないようにね。

◉異化された逆張り

オクターヴ上のシタールが入ってることもあって、やっぱ自覚的に使ってるんだなと思ったんですよ。強調したくなければ入れないでしょ?

それが『HEAVEN'S RAVE』が佩いているもう片方の刀であるフリジアンドミナントなんですが、これは何と比べて違いが引き立つかというと、『SEVENTH HAVEN』と比べればより明らかになります。

『硝子ドール』と『永遠の灯』の関係とパラレルで、先代と言えばいいでしょう。『SEVENTH HAVEN』は『Tokyo7thシスターズ』ってコンテンツの名刺代わり的な曲で、人気が高いと。良い曲です、確かに。なんですけど、あえて言えばねえ……

『SEVENTH HAVEN』は非常にプレーンな音なのです。E=C#mキーのダイアトニックから外れる音はほとんど出てこないはずです。少なくともいま言ったように、2つの刀を同時に佩いている『HEAVEN'S RAVE』さんと同じように色々入り組んではいません。Eキーのダイアトニックで手堅く成り立っている曲です。

それが、非常に素晴らしいEDMの洗練された編曲によって聴けるわけなんで、これは持ってかれるよねって感じなんだけど、ちょっとね、そのプレーンさが気に食わないということがあるわけです。混ざってないんですね、『HEAVEN'S RAVE』と比べたら。Eキーの曲です。はい、カッコいいです。ていう。終わり、みたいな、終わりって言ったら失礼だけど、そういう感じなのよ。成分的にはね。

だから例えるならば、週刊少年ジャンプの主人公みたいなもんで……ヘーゲルみたいなもんだ、って言ってピンときてくれる人がいてほしいなって思うんですけど。

「絶対知」と同じ意味じゃないですか『SEVENTH HAVEN』ていうのはね。ゲルマン的国家でしょうね。『SEVENTH HAVEN』は西洋哲学的に言えばヘーゲル的な、個であり全であるって感じの、弁証法的だし、主人公っぽいし、歴史の始まりであり終わりであるって感じがします。

それに対する、ある種の逆張りである『HEAVEN'S RAVE』が、これがね面白いもんで、私の評価では『SEVENTH HAVEN』を遥かに超えてると思うんですよ。

何故かっていうと、やっぱり混ざってるからですよね。Eキーの曲です! って感じの先代とは違って、単なる短調ではなく、ハーモニックマイナーが混ざっているし、ベースの下がり方にも非常に調性を撹乱するものがあるし、さらに加えてフリジアンドミナントの「トゥレレ↑」がさりげなく入ってるわけで、アレクサンドリア感があるわけですよ。

色々混ざって混血している、他所の要素が混成することによって、自分自身を成しているっていうのが『HEAVEN'S RAVE』で……

ヘーゲルに対するキルケゴールみたいなね、って言って解っていただきたいんですが。私ヘーゲルもキルケゴールもどっちも嫌いですが。ヘーゲルの逆張りであるキルケゴールはなんにも面白くないですが。『反復』は面白いけどね。あれはフロイトに拾ってもらえてよかったね。フロイトの方が100倍凄いけどね、っていうだけのキルケゴールとは違って、逆張りなのに面白いっていう『HEAVEN'S RAVE』さんでございます。

それが何故かというと、あまりにも純血的な存在であった先代と比べて、さっき言ったハーモニックマイナー系の音も入ってるし、「トゥレレ↑」のさりげないあれも非常に効いていて、アレクサンドリア感が醸し出されているわけですから。こっちを評価したいですね私は。

さて、今まで説明を引き伸ばしてきたんですが。このフリジアンドミナントとは何ぞやっていうのを、理論入ってる人はもう勘付いてるよね。

フリジアンドミナントとハーモニックマイナーは、実は、同じ音です。


◉E♭フリジアンドミナント=A♭ハーモニックマイナー

「?」って思った人は、今いいとこにいますよ。音楽理論を実用的に学ぶ過程でね。

ハーモニックマイナーっていうのは、ナチュラルマイナーの7度が長になってるスケールなんだけど、このハーモニックマイナーのスケールを、完全5度の音から弾きだすと、自動的にフリジアンドミナントの音の並びになるわけ。

さっき解説した、短2度と長3度の半音3つぶん離れてる特異なあの並びは、実はハーモニックマイナーの、長7度と短6度と同じなのでございます。

これがねえ、音楽理論勉強するうえで一番「えっ」てなるし一番アガるのは、「同じ音だけど名前が違います」って言われたときね。

たとえばコードの転回形の話もね、上で3つの音がシンセでフワーって鳴ってるけど、ベースがこう動けば、別のコードネームになるし、役割も別になるからな。って言われたときの「?」って感じは、理論勉強するうちで、誰もが突き当たるんだけど、これが理解できたら、聴くのも作るのも演奏するのも楽しくなりますよ。

フリジアンドミナントはハーモニックマイナーの5度からの弾き始めだ、っていう話でしたね。

面白いですよね、さっきフリジアンドミナントがエスニックとかいうソフト差別用語で呼ばれる響きを持ってるんだけど、その音の並び自体は、クラシカルな、ザ・白人音楽って感じの、音の並びと同じ。なのに、弾き始めの音が違うだけで地中海っていうか、アレクサンドリア感になってしまうわけで。

これはなんていうかねえ、精神分析的な話だけど、白人の罪悪感が実はここに隠れているのではないか、みたいなね。自分のアングロ・サクソン的な音楽が、実はきわめて近代の産物にすぎなくて、その起源はギリシアに直接遡るのではなく中間にアラビアがいる、っていうね。これ歴史勉強してる方は「ああ、アレね、あの歴史修正主義に屈服しちゃう人たちね」みたいな話が通じてると思うんだけど。まあそれは止しましょうか。

つまりね、いま『永遠の灯』と『HEAVEN'S RAVE』ふたつの曲を分析してますね。

『永遠の灯』がE♭mキーを譜面に書かれる上での調として、E♭mキーの中でハーモニックマイナーを使いつつメタリカスケール。

そして『HEAVEN'S RAVE』は何か。E♭のハーモニックマイナーが特異だし、E♭ハーモニックマイナーを使っているという意味で、『永遠の灯』と『HEAVEN'S RAVE』の右手に握られている刀は同じ銘です。

ですが、もう片方が違う。E♭フリジアンドミナントを『HEAVEN'S RAVE』は使っていて、「トゥレレ↑」を使うことによって、アレクサンドリア感が出ていて、先代の『SEVENTH HAVEN』のような一色・純血な感じは出ていない。

さあ、このふたつの武器をちゃんと取り出せたところでもう色々見えてきたんじゃないでしょうか。

整理するよ。つまり『HEAVEN'S RAVE』は、E♭ハーモニックマイナーと同時にA♭のハーモニックマイナーも使っていると考えてもいいわけです。E♭フリジアンドミナント=A♭ハーモニックマイナーだから、同じですね。

ただ、そのA♭ハーモニックマイナー=E♭フリジアンは、短2度が入っているわけなんで、『永遠の灯』で使われているメタリカスケールと、ここは同じですね。

しかし『永遠の灯』で使われているのは、E♭ハーモニックマイナーと、ナチュラルマイナーの短2度と減5度の混成であるメタリカスケールであるから、使っている武器は違うけど効果が似ているっていう、そのような効果が得られているわけです。

それが今回、この2曲を同じテーブルに乗せて分析しようと思った所以です。

『永遠の灯』と『HEAVEN'S RAVE』の、それぞれ佩いている異なる刀の検分は終わりましたが、最初コーダルとモーダルの話をしたんでしたね。

この2曲は、言ってしまえばそれぞれ異なるかたちで、単なる短調を異化しているわけです。

『永遠の灯』は、E♭のハーモニックマイナーとE♭のメタリカスケールの二刀流でね、『HEAVEN'S RAVE』はE♭ハーモニックマイナーとフリジアンドミナント。

そのハーモニックマイナーは実はフリジアンドミナントと音列自体は同じで、弾き始めの音が違うだけなのである。っていう、今までのおさらいですが。

しかしね、ここで、あえて。話をしなきゃいけないのは。

私はモード的な音の使い方をもっと一般化させていきたいと思ってるんですけど。でもね、モードを使っていれば万々歳ってわけでもなくて。

モードにはね、モーダルなモードの使い方と、コーダルなモードの使い方の2種類があるって話を今からしなきゃいけないんですね。

◉『Monarchy of Mortality』分析:コーダルなモード用法の最たるもの

「今の話なんだよ!?」って思った人たくさんいると思うんだけど、それは正しくて。

モーダルなモードの使い方ってなんだよ、熱湯が熱いみたいな話でしょ。同語反復じゃねえかって思った人は正しいです。正しいんですが、言ってみればモードとコードって対立概念でもないし、単に別のエンジンで動いてるだけですよね。

和声的な秩序っていうのは、トニック、サブドミナント、ドミナント。静、やや不安定、不安定。っていう3つの弁証法的なクラスが与えられていて、ダイアトニックの中でそれぞれ役割が与えられていて、どんな複雑なコード分解をしようが、その3つの正・反・合的な秩序の中に当てはめられてしまうっていうのが和声的ですが、モードはそれとは別な、強い帰着感を与えるっていう、和声的なドグマを、白人的な秩序と言いましょうか。

まあ言うまでもなく、和声=ヘーゲル、弁証法としてなぞらえてますよ、今。

その秩序をどうして破るかって話になってくるわけですよ、どうしても。さっき言ったキルケゴールはとてもダメな例ですが、ニーチェが一番素晴らしい例ですが。西洋哲学の中でね、その人の思想をそのままアフリカに持っていって通用する哲学者って、フリードリヒ・ニーチェしかいないんですよ。他はダメです。

でニーチェがファンク=モードっていうふうに私の頭の中ではなってるんだけど。でもね、ニーチェに影響受けた思想家が簡単にヘーゲルを破れるわけではないのと同じように、和声的な秩序っていうのは、モード使ったからもう解体できました、万々歳っていうわけでもないし、さっき言ったシェーンベルクみたいな、12音技法で全ての音に平等に役割を与えて調性という概念自体を解体しますっていうのも、なんだよって話になるじゃん。平岡が言ってたように、弱いわけですよ。

異なる別の7音の二刀流でやっているって話を今までしてきたわけでしょ。それで、モーダルなモードの使い方とモーダルなモードの使い方の2種類があるってことを、今ここで確認しておかなくてはならなくて。

それを一番わかりやすくするために、私の曲聴いてもらおうかな。

2年前に作った曲で、小説書いてたんですけど、第2部書いてるときに、とある登場人物に深く移入してしまって。

その結果として作ったというか、いつの間にかできてた曲なんですけど。これがね、コーダルなモードの使い方の最たる例になってしまったんですね。

はっきり言うよ、良い曲ですよ。良い曲なんだけど、和声秩序の中でモードを機能させてしまっただけの曲だなあと、今ではそう評価せざるを得ないんです。

『Monarchy of Mortality』という曲です。

これもE♭のキーです。不思議ですね、なんか使いたくなっちゃうんだよね。なんかモーダルな曲はE♭とかB♭とかになっちゃいますよね。

この曲はAメロとBメロとサビの流れで、きれいに、和声的な秩序の中でモードが機能しています。それを聴きながら追っていきましょう。

聴いていただいてわかるように、E♭mキーの曲としてAメロが展開していきます。

そしてBメロに差し掛かると同時に、この曲はE♭フリジアンドミナントに変わります。

アレクサンドリア感が出てきたでしょ。「いきなりなんか変わったぞ?」って思ったでしょ。違和感を与えるようにできてます。Bメロで変わるんですが、このBメロ最後の2小節で、A♭ハーモニックマイナーに移ります。これはトリッキーだけど聴いてみよう。

転調しましたねサビで。Bメロ最後の2小節で、A♭ハーモニックマイナーが使われてるって話はしたけど、

ここの2小節が、Bメロとサビっていう両セクションの橋を渡すために要請されたものなんです。この2つを繋ぐための効果を担ってます、このA♭ハーモニックマイナーは。

で、サビでA♭m移るんですが、もう勘の良い人は解ってますね。Bメロで出てくるフリジアンドミナントは、ハーモニックマイナーを5度から弾き始めたスケールだから、E♭フリジアンドミナント=A♭ハーモニックマイナーですね。それが最後の2小節で使われているんだけど、これです。つまり、A♭ハーモニックマイナー=E♭フリジアンドミナントのセクションを入れておくことで、「ダダダダッ」ていう、自分で言うのもなんだけど超カッコいいアコギのキメとともに、歌メロも G - A♭ - B♭ になって、A♭ハーモニックマイナーをなぞっているわけですが、後にA♭のナチュラルマイナーを基本秩序とする短調の世界に移るわけです。

これが、コーダルなモードの使い方の最たるものです。

BメロでE♭フリジアンドミナント=A♭ハーモニックマイナーを使って、それをAメロ:E♭m・サビ:A♭m、それぞれ異なる短調の世界を接木してるわけですね。

これによって何がわかるかというと、モードという理論が、E♭フリジアンドミナントのアレクサンドリア感が、異化を与えるはずの音が、もう和声秩序に吸収されてるでしょ。A♭mに移るための道具であるわけですよ、このE♭フリジアンドミナントは。

言わばその走狗として、ほとんど奴隷のように使われているわけですよ、和声秩序の中でね。それが、この曲いま聴いて、あんまりいいと思えないなっていう理由です。

「いやすごく良く聞こえたよ」っていう人もいると思うんだけど、確かにそうですよ、その辺の曲なんかよりよっぽどちゃんと作られてるし、メロディのセンスなんかも我ながら素晴らしい曲ですよ。でも100%良いとは言えない。何故ならE♭フリジアンドミナントっていうモードの属性が、E♭mとA♭mという2つの調性世界のなかで首輪をかけられて、使われてるだけの曲だからです。

これがコーダルなモードの使い方です。

この曲は私の……64万字になってしまった長編小説の第2部執筆中に作った曲で。

この曲聴いてさ、正直さ、「ゲイっぽいな」って思いませんでした?

◉ゲイっぽいな

なぜこういうことを言うかというと、この曲を託された登場人物っていうのが、役割的にはヘルメスとかメルクリウスみたいな人物なんですね。

つまり盗賊で、アポロンを音楽の神に仕立てた、仕立屋ですよねヘルメスは、言ってみれば。解る人はね、その人の名前見ただけで解ると思うんだよね。「あ、水ね」っていうね。

ヘルメスとかメルクリウスっていうのは、ロキみたいに変幻自在に形を変えて、トリックスターとして騙くらかしたり煙に巻いたりする、神話的な存在ですよね。メルクリウス=マーキュリーです。水銀です。水銀というのが変幻自在なものの象徴です。マーキュリーなので、クイーンです。っていう、もう、この説明で十分でしょう。

だから変幻自在で、何にでも変わってしまうものっていうのは、両性具有であって、だから「ゲイっぽいな」と思いませんでした? って訊いたんですけど。

ゲイとトランスセクシュアルを一緒にするな、っていうのは当然のことなんですけど。この平岡正明の本の中で、チェット・ベイカー論で、「オカマとホモの明確な定義の違い」が論じられていて、本当に素晴らしい文章なので、ぜひ読んでいただきたい。

自分のセクシュアリティとかで自意識がぐちゃぐちゃになってる人こそ読んでいただきたいと思うんですが。私のセクシュアリティについては、好きなように想像していただきたいと思いますね。

で、この曲も両性具有なんですよ。E♭mとA♭mを中継するものとしてフリジアンドミナントが酷使されているわけなので。

そういう意味でコーダルなモードの使い方というのは両性具有的であると言えるんですが、それは結局、和声的な秩序の中に回収されてしまうので、ナチュラルマイナーをエオリアン・メジャーをイオニアンとして相対化して、ただのモードという音列の中の一部であって、トニック・サブドミナント・ドミナントという弁証法的な運動の中に組み込まれているのではありませんよ我々は。っていうのがモード的な理論でしょ。

それが無くなって、首輪をかけられてしまっているわけです。この『Monarchy of Mortality』って曲のフリジアンドミナントはね。

いま聴いていただいたのがコーダルなモードの作曲の最たるものであります。

◉「なんでオレは単なる短調の曲しか作れないんだ」から異化へ

じゃあどうすればいいのか、って話になります。

この動画でメインのタームとして使うことになる、異化って言葉がありますね。これは要するに、この異化によって、長調/短調という既製の秩序を異化させ続けることによって、もっと別の音楽の、作曲の可能性が拓けるに違いないと私は踏んでるわけです。

とくにダンスミュージックなんですよ、調性が異化された音楽の可能性が最も遺憾なく発揮されるジャンルっていうのは、ダンスミュージックです。『永遠の灯』、『HEAVEN'S RAVE』、どちらも同じです。EDMですねこの2つは、広義のジャンルでは。

なので今回この2つの曲を取り上げたのは、実に見事かつ微妙に異なるかたちで、E♭mキーという、あらかじめ与えられた秩序を少しずつ自分の内側から喰い破っているような音楽だからですよ。

それと同じ音楽の在り方っていうのを、私は次の音源作ってる時に見出したので。コーダルな世界から始まるんだけど徐々に違うところへモードの力を使って喰い破っていこうとするような感じの曲が、次に出す音源の曲であるんですね。っていうかこの1stアルバムの中にもそういう曲はいっぱい入ってますけど。

それを詳らかにするために、今回長めの動画を作りました。そして私の過去の曲も聞かせてみました、反面教師としてね。

最後に。この動画を宛てているのは、作曲をする人なのね、分析というよりも。

私が一番念頭に置いてるのは、「好きなバンドやアニソンの分析やコピーはだいぶできるようになったけども、自分のものを発表するにはちょっと至らないな」と思ってる人たちに、今回、非常に実践的な道具を、武器を与えることができたと思ってます。

私もね、ほんとに思ってたわけですよ、作曲始めたばかりの頃。「なんでオレはこんな単なる短調の曲しか作れないんだ」って思ってましたよ。

何故そんな悩みを抱えていたかというと、異化させていなかったからなのですね。最初から調性を設定して、その中でメロディアスなのを弾くっていうのは、9割以上のヘヴィメタルとかハードロック、いやもうポピュラーミュージック全般がそうかなって思うんだけど、そういうふうにやっていると、端的に踊れなくなってくるし、和声にもっていかれて、リズムやグルーヴや、もっと足腰を行使できる、明るい、ニーチェ的に言えば「ワーグナーよりビゼー」ってセンスですね。そういう南洋的なセンスを、作曲しはじめの頃には全く持っていなくて、それが悩みだったんですが。

試行錯誤していくうちに、異化だな。っていうことにたどり着きました。

次に出すParvāneの音源を作ってる最中に、『永遠の灯』も『HEAVEN'S RAVE』も私の新曲も、これは「既存の調性世界の異化」に重点が置かれているって解ったんですね。モーダルなモードの使い方によって、単なる短調を異化することによって拓ける豊かな領野があると私は信じています。

それを理論的にも感性的にもわかっていただくために今回、動画を作りました。

◉寝たきりのヤク中とムチムチの悪漢

この話もしようか……『アイカツ!』のディスになるんですけどね。

私はね、このCD買ってた頃は盲目的なファンだったから、これ系のライブに何回も行ったのは勿論、同人の二次創作頒布物を取り扱うイベントにも何度も行きましたよ。その私が言うんだから、と思って聞いてね。

『アイカツ!』前半の2年が及ぼした影響がどんなものだったかというと、この『アイカツ!』って作品は、あの震災があってね、元々の企画はスポ根的な、色々つらいことがあって克服していくみたいな要素があったらしいんだけど、あの震災をきっかけに「いやそういうのじゃなくて、もっと明日への力を信じられる作品が必要じゃないか」っていうことになって、転向したんですね、作品の方針を。

勿論その理想自体が悪かったとは言いませんよ。『アイカツ!』という作品によって、色々辛い時期を助けられたという人も沢山いらっしゃるでしょう。

しかし、『アイカツ!』の最初の2年間がどのような影響を及ぼしたかというと。最初の「希望を信じられる作品にしたい」っていう理想が、内向するかたちで、ネガティブなことも起こらないっていう要素が、どんどん現実に起こっている物事を見えなくさせるための・鈍麻させるための、「もう暗いことなんて感じたくない」っていうふうに、麻酔的なものとして利用する人たちが大量に生まれてしまったわけです。

藝術の非政治化であり、アスピリン化ですよね要するに。麻酔薬として音楽とかアイドルとかアニメとかを使ってしまえる精神の一般化です。もう言うまでもないね、今そうなってない人の方が珍しいでしょ。

もちろん私自身も、そういった考えに慣れ切ってしまっていた時期があったんだけど、この『アイカツ!』の次に始まった『アイカツスターズ!』がどういう作品だったかというと。

『アイカツ!』が……寝たきりのヤク中だったとしましょうか、擬人化してね。ヤク中が病院のベッドに寝そべっててね、あばらが浮いててね、点滴一本打たれてなんとか生き繋いでる。もう片方の腕には別の注射器の痕がいっぱいある。寝たきりのヤク中がいるわけですよ。

その中に、『アイカツスターズ!』さんというムチムチの悪漢がいきなり入ってきて、寝たきりのヤク中の片腕に突き刺さっている点滴の管をブチッと引き抜いて、「こんなモノに頼ってんじゃねえ」と。「こんな癒しとかいうハードドラッグに頼ってんじゃねえ」ってメンチ切って、それをみたヤク中が「あああなんとひどいことを」って言って、死ぬ。っていう。

死んだのを見届けて、「ケッ」て一瞥だけくれて、悪漢は外に帰っていく、っていうね。「辛くてそしてかゞやく天の仕事」をするために帰っていく、っていう。

そういう2年間がきて、私は命が助かったんです。

で『スターズ!』さんはね、ラオウみたいな感じで立ってて、私がこう土下座してるわけですよ。

「すいませんでした、私もいつのまにか、わけのわからないハードドラッグビジネスに巻き込まれてしまっていました、本当はこんなモノ無しでも生きていけるはずだったのに。すいません」って言ったら、『スターズ!』さんが「おお、そうだろ? ていうかお前な、一時期音楽やってたよな? お前いまあれはどうなったんだ、自分で音楽やってるわけでもねえのか。自分で音楽やりもせずになんかキラキラ歌ってる奴らの姿見て溜飲下げてんのか、ああ?」って言ってきて、「ああ、仰る通りです。じゃあオレも白鳥さんみたいにうまくできるかどうかわかんないですけど、オレも自分なりの音楽をまた始めようと思うんで」って言って、それの結果がParvāneです。いろんなことがありますね。

『スターズ!』の放送終了、2018年ですけどね、いろんなことがあります。

◉歌があって世界がある

じゃあ、まとめますよ。理論の話はもう散々したので、総論をやりましょうね。

いま扱った『永遠の灯』と『HEAVEN'S RAVE』は、どちらもアニメやアプリゲームが出典であって、そのために提供された楽曲だということになっていますが、逆なんだ、っていう話をしましょう。

あのね、古井由吉さんと吉増剛造さんが対談で話してらしたことがあって。

まず世界があって、その中に歌があるって因果が普通でしょ。地球があって地面があって樹が生えててその梢にとまっている鶯が鳴くことによって歌があるっていうのが、正気の、常識的な因果というものでしょ。でもね逆の世界もあって、歌があったあとで世界がある、歌があった結果として世界が展開する、生まれるっていう、そういう……ことがありますよね。ってもう普通に言っちゃうから、古井さんとか吉増さんとかは。怖いから、あのレベルの言語の遣い手は。

歌があったあとで世界があるんですよってサラッと言っちゃうから、もう参りましたって思ったけど、真実ですこれは。

『永遠の灯』とか『HEAVEN'S RAVE』っていう曲は、単にキラキラした、イラストのついたアニメだかゲームだかの内部に飼われたものとしてね、安全に飼い慣らされたものとしてあるのではないのです。何故ならこれは音楽だからです。

たとえば、キャラ萌えだとか推しだとかのオカズとして使われるのが妥当な使われるのが妥当なとこだと思われてるんでしょ。でも違うんです。

『アイカツ!』っていう世界の中に『永遠の灯』っていう小さい楽曲があるのではなくて、『Tokyo7thシスターズ』という作品の中に『HEAVEN'S RAVE』という小さい音楽があるのではなくて、逆で。

優れた歌の、単体から始まる世界がアニメとかアプリとかいう小さい世界を軽々と圧倒してしまっているというのが、実相です。

歌から始まる世界の方が大きいのです。何故なら音楽作品だからですこれは。

はっきり言いますけど。私は『アイカツ!』とか『ナナシス』とかの音楽を作った人たちだけを尊敬しているのであって、なんか監督とかシナリオ書いた人とか絵描いた人とかのことは全く尊敬してませんから。何故なら、音楽を作ってないからです。

そういう意味で私は職業差別主義者ですが、もうそれでいいと思います。音楽的な画家とか、音楽的な大工とか、音楽的な……配管工とか、そういった人たちはいます。すべての職業に音楽的な、という接頭辞は付くと思ってるんです。その音楽的な人たちに、私は呼びかけていると思っていただきたい。この動画は作られたと思っていただきたい。

そういうふうに世界を把握することが必要です。アニメの曲アプリの曲だからそういうふうに楽しんどけばいいよねじゃなくて、この歌が理論的にも感性的にも導いていることの可能性に、ちゃんと耳を澄ましさえすれば……

こういうふうに、紙が抑えられている状態ですよね。「どうせ……」と妙な文鎮を置かれているこの状態を、文鎮を払い退けさえすれば、風は吹いているわけだから、この優れた詩が書き込まれた音楽たちは、フワーっと飛び去る、踊り出すわけですよ。文鎮が要らないわけです。

その思考の検閲を外すっていうことを、私はこの動画で一貫して訴えかけているんですが、最初は理論の分析から始まって、いま総論的な話になっているので、全面的に言っていますが。その鍵は異化ということです。世界に違った解釈を与えるということです。

そうでなければねえ、世界がダメになるから。戦争も敗けます。

これは菊地成孔さんとか平岡正明さんとかが、第二次世界大戦勃発前のジャズの様相を分析して、チャーリー・クリスチャンと演奏するガレスピーとかを分析して、「こんな文化のある国と戦って勝てるわけないな」ってベタなやつじゃなくて、音楽をやってた人間の存在自体が、もう小さなカテゴリの藝術=戦争を、音楽家という存在が、世界大戦という小さな出来事を、成程というかたちで納得させてくれるんですよね。

だから、たとえば実際の戦争をやめさせたいのであれば、いま言ったような「歌から始まる世界」というような別の価値を与える異化の、つまり藝術の力を身につけることが必要です。

そういう力をねえ、検閲にかけて無くしてしまうような事態を私は避けようと思うわけです。

その鍵は異化とダンスです。

それを活かして、ぜひ、音楽を作っていただきたい。音楽家になっていただきたい。

◉サゲ

理論的な分析はもう終えました。あとは実践です。皆さんも優れた音楽を作ってください。私は、再来月出しますので。

「へえ、人の楽曲を理論的にあれこれ言って分析してる奴が、どんなもん作ってるか確かめてやろうじゃん」って思った人は、いらっしゃいませ。今までになったことがない気持ちにさせてあげますから。この1stアルバムだけでだいぶ楽しめるから、キャプションにリンク貼っておきますんで、「へえ、でかい口叩いてるけどお前の作品はどうなの?」って思った人は、これをどうぞ。

一年楽しめるどころじゃなくて、一生消えない何かになるはずの作品ですこれは。

さあ長くなりましたが、必要なことは全部言えたんじゃないかと思います。もしこれが好評だったらね、まだトピックは残ってるんで、ポーキュパイン・トゥリーの『Open Car』とピンク・フロイドの『Bike』と『007のテーマ』が関係あるって話とか、THE YELLOW MONKEYの『聖なる海とサンシャイン』の分析とか、好評だったらね、やっていきたいと思います。再生回数18とかだったらやりません。

私は再来月音源を出すので、この動画を見て「おっ!」と思った方は、もう今すぐ作曲を始めてくださいね。

YouTuberは必ず最後に「チャンネル登録お願いします」って言うんだよね。でも私は言いません。

その代わりに、「Twitterアカウントを消せ」と言います。

ツイートしてないで曲を作りなさい。言い訳は要りません。

じゃ、再来月ね。お互いに無事だったらまた会おうね。


https://integralverse93.wixsite.com/parvane

https://www.instagram.com/parvane_iv/


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