阿部暁子「パラ・スター」

緊急事態宣言が発令される予告を受けた14日。その日仕事を終えて急いで書店に向かい、自粛期間中手持ち無沙汰にならないようにと書籍を大量に備蓄。

計7冊。計画性なく買いすぎである。

テレワークの休憩時間や夜の合間を縫って、本日そのうちの1冊がとりあえず読み終わりました。

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こちらです。集英社文庫から出ておりまして、著者は阿部暁子さん。青春ものを何冊か出しているそうですが、僕は今回この方の書籍を初めて手に取りました。

side 百花 と書かれて察しはつくと思いますが、この物語は「世界クラスの車いすテニスプレイヤー」と「新鋭車いすエンジニア」というそれぞれの道を歩む2人の姿を、各々の視点から描かれています。Side百花は「エンジニア」の方ですね。

もちろんプレイヤーである宝良側の本も出てるんですが、検索してみると……

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百花と宝良逆やないか!

さて、誤植はさておき話を百花sideに戻します。

ーあらすじー

本作の主人公である百花は、デブ ブス グズという三大負債を抱えていたために、同級生からいじめられ地獄のような学生生活を送っていた。そんな彼女は高校二年生の時、体育館裏でいじめられていたところを宝良に助けられる。

いじめられっ子をちょっとばかしセンセーショナルな手法で手助けしたもんだから、いじめの標的がにわかに宝良の方に移ったりもするが、グズな百花と違ってそんなことにもびくともしない芯の通った宝良の姿に、百花は憧れにも似た感情を宝良に抱く。「いつかは宝良のようになりたい、でも自分はそんなの到底出来っこない……」心の淵に焦燥や憧れの混じった複雑な感情を抱きながらも、百花は宝良と関係を密にしていく。

しかしその輝きは突如として交通事故により奪われてしまう。事故により下半身付随となった宝良は、テニスはおろか移動や就寝、排泄などの普段通りの生活すら他の人の助けなしでは出来なくなってしまった。リハビリにより生活の大半はこなせるようになったものの、テニス一本で生きてきた宝良は、この先テニスはまともに出来やしないという将来の暗さに嫌気が差し、ついには自殺まで試みるまで心を病んでいた。

生を捨てようとする彼女をなんとか必死に止め、百花は「車椅子テニスのジャパンオープンを見に行こう」と提案する。宝良は最初こそ行かないと反対したものの、百花がちょっと挑発的な物言いをするとすぐに提案に乗ってきたのだった。

ジャパンオープンの試合に触れ勝負師としての血が戻ってきた宝良は、車椅子テニスプレイヤーを目指すことを決意。そして百花は、彼女が乗る最高の車椅子を作るエンジニアになることを夢見て人生を歩み始める。

そして時は進み、百花が車椅子メーカーで働き始めてしばらく経った頃。プロテニスプレイヤーとして世界に名を轟かせる宝良の活躍ぶりに焦りを感じ、百花は今いる組立部署から営業設計への転属の意思を上司である小田切に告げる。

百花の熱い意志が受け入れられ、兼任という形で小田切の営業に同席することに。そして対峙したクライアントは、「運動感覚が鋭く、輝かしいばかりの成績を残してきたが、脊髄炎により足が使えなくなってしまった」という、宝良と同じく「突如として運動を奪われた体育系少女」のみちるだった。

ー感想あれこれー

この物語を読んでいて、改めて「障がいと生きていくとは何か」「誰かのために尽くす喜び」というものを感じられました。

本作で登場する車椅子ユーザーは、あらすじで前述した宝良とみちるの2人。いずれも「元々は健常者として生きていたが、現在車椅子生活を余儀なくされる肢体不自由者」です。自分が今までできていたことのほとんどができなくなる辛さ……。

皆さんには想像出来ますか?僕は彼らの辛さに共感することは、健常者である以上絶対に不可能だと思っています。

しかし、この作品で描かれるのは百花をはじめとする車椅子職人、すなわち健常者たちの姿。作中の職人の方々は、ユーザーの方々がどのような生き方を望んで車椅子をオーダーするのか、その気持ちに寄り添いながら最高の車椅子を作るために尽力しています。この寄り添う気持ちが繊細に描かれている点が、本作品の魅力につながっていると思います。

「人を思い、人と生きていく。」

現代社会で人のつながりが希薄化していく中で、障がい者に対してだけでなく、あらゆる人にこの寄り添う気持ちを以って接していくことの大切さをひしひしと感じます。

本作品で個人的に特に大きく心を突き動かされるのは、百花がみちるの本当の気持ちを汲み取り、みちるの車椅子の購入を後押しするシーン(第4章)。百花の要領悪くもまっすぐな主張が、みちるの生き方に対しての考え方を変えた瞬間、みちる本人とその母親、そして百花はどう思っていたのか。色々と共感できて涙を誘われる点が多く、素直に泣けます。僕がこういう家族愛的な作品に弱いだけなのかもしれないけども(クレヨンしんちゃんのモーレツ大人帝国で子どもながらウルウルしてたくらいですし)。


と、あらかた思いを綴ったところでこの辺で終わりにしておきます。note的にはこの分量って多いんですかね?あまりよくわからないですが。

この先も、出来る限り時間を見つけて更新できたらと思います。次は文庫化した「殺人アリス」を読もうかと思案中。






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