1、我々はいかにして真実への飛躍を目指すのか

「演技は、嘘だという。
 人は名前を付けられた時から、一個の継続性をもった存在となる。
 この存在は、過去の罪を問われたり、未来に責任を持たされたりする。
 罪や責任を放棄し、別の人間として振る舞うことは、演技である。
 そして、演技は、嘘だという。
 事実と矛盾することを、嘘という。
 だが、人間にとって、事実がそれほど重要だとは思えない。
 我々人間に必要なものは、真実である。
 事実から真実への飛躍を、演技によって遂げることはできないだろうか?」

「はいはいはいはい、ストップストップー。
 あのね、あんた分かってないね。
 どういうつもりでセリフ言ってんの? 全然伝わってこないから。」
「ですけど先輩、あたし、このセリフの意味が分かりません。」
「あんたがセリフの意味を理解できていないのは見れば分かる。ヘタクソ。
 私が聞きたいのはね、どうして理解もできていないのに
 イケシャアシャアと舞台にたってられるのかってこと。
 あんたの神経何でできてんの? すずらんテープ?」
「なら言わせてもらいます。先輩の台本、言葉が整理できてないんですよ。
 べらべらべらべら、まあ愚にもつかない、こんなロクでもないこと、よく書けますね。
 なんでもかんでも思いつくまま書けばいいってもんじゃないんだよ、この愚鈍!」
「ハァ? あんた、自分の力不足を私のせいにするわけ? 
 どこまで厚かましいんだよ、この大女優が!」
「うるせえ、ポンコツ演出家!」
「あっ、てめえ! 作家兼演出家だっつってんだろう!」
「どっちでもいいわアホ! どうせどっちも半人前なんだからよ!」
「まあまあ、二人とも、落ち着いて。」
「モブはだまってろ!」

「あー、演劇部、またやってるよ。」
「また練習時間へるじゃん。」
「部長、何とか言ってきてよ。」
「えー、怖いよう」
「あんた部長でしょう。練習時間確保のためにひと肌脱ぐのが仕事じゃないの?」
「じゃあ、Kちゃん行ってきてよ。」
「K先輩、お願いしますよう。」
「またアタシ? しょうがないなあ。」

「おい、お前ら!」
「あ、K・・・。」
「どうも、K先輩。」
「いい加減、時間過ぎてんだよ、はよのけ!」
「ごめん、だけどコイツが。」
「あたしのせいですか? 先輩がくだらないセリフ書くからでしょう!」
「アホな揉め事は外でやれ! こちとらコンクール前で時間がないんだよ。」

 演劇部とダンス部は、一つしかない講堂をシェアしている。コンクールや本番が重なると割当てが減るため、練習時間が少ない。どちらもピリピリとしたムードになる。
 演劇部はこの後、部室に戻って打ち合わせ(ケンカ)の続きである。真実への飛躍は、なかなかに厳しそうだ。

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