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ハリウッドの本質は暴力、精一杯のウィットを込めて

飛行機で観ました。「ワンスアポンアタイム・イン・ハリウッド」。60年代末というのは、かつてのハリウッドの栄光が変質し始めた最初の時期。
ディカプリオ演じる落ち目の西部劇TVスターと、ブラピ演じるスタント・マン。この二人を通して、西部劇=暴力こそがハリウッドの本質であることを、映画的記憶の心憎い引用にウィットを交えて描いた。
これは、オタク監督ティム・バートンが、最低趣味恐怖映画監督の実話に基づいた「エド・ウッド」を撮った趣向に近い。監督のタランティーノが上手いのは、マーゴット・ギター演じる60年代末のアイコン、シャロン・テイトが、カルト信者によって妊娠中無差別殺人の対象となった惨劇を前提にしながら、落ちでこの事実を捻って、暴力を観客に半ば心地よく描いて見せるラスト10分だ。
ブラッド・ピットという役者の魅力を見事に引き出したり、ディカプリオに落ち目の俳優の悲哀を演じさせつつ、劇中劇で見せ場を作ったり。タランティーノへの信頼があってこそ、この2大スターの競演が可能になったことがしみじみわかる。
アカデミー賞は、ベトナム戦争のこの時期、戦争狂いのパットン将軍を演じたジョージ・C・スコットと、ゴッド・ファーザーを演じたマーロン・ブランドの二人から受賞を拒否された。ブランドは、インディアンを虐待する西部劇そのものへの批判を、インディアン系無名女優を授賞式会場に送って辞退させる手を使って。
ブルース・リーを口ほどにもない奴とブラピに打ちのめさせたり、「メキシコ人の前でメソメソ泣くな」といったヤバい台詞を挿入したり。トランプとその支持者は、この映画に快哉を叫んでいるだろう(笑)。
マカロニ・ウエスタンへの皮肉な描き方には、キャリアが重なるクリント・イーストウッドへの皮肉な視線も見てとれ、暴力に悩んだり、反省したりしてみせる映画監督としての巨匠クリントに、俺はそんな風には撮らないと言っている映画にも思えた。
やたらに煙草を吸う、ハリウッド人種が出てくるこの映画は、好き嫌いが分かれるだろうが、私は一つの映画愛から生まれた現代の映画の状況への批評を含んだ秀作だと思った。ブラッド・ピットがこの映画で助演男優賞を取れないとすれば、ハリウッドはかなり去勢されていると見た(笑)。

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