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アナキストとエロス、あるいは女権の女たち

(承前)このあたりのことには思い出がある。大杉栄の最初の愛人で、伊藤野枝に愛が移るの気取って、大杉を日蔭茶屋で刺し、戦後は社会党の代議士として売春防止法に尽力した神近市子(写真、津田塾出身)を、子供時代テレビで見た私は、何も知らず、「このきれいなおばあちゃん、僕のおばあちゃんに似てるね」と親戚一同の前で語って、大人を絶句させたことがあったのだ。


というのも私の祖母は、「青鞜」にこそ入らなかったが、女子学院の一期でタイピスト、鉄道省では年下のイケメンの祖父を捕まえて働き続けた女だったのである。知性と自活力があるだけでなく口の大きい、神近さんのような女性で、晩年までモテた。


私が最初に憧れを感じた女性はこの祖母だったし、京都にいて東京へ出ることになったのも、かつて東京で活躍し、東京を案内し青山のお墓によく連れていってくれた祖母の影響が大きかった。母は出来の悪い味噌っかすだったのである。


高校時代に吉田喜重監督の「エロス+虐殺」(写真)で、大杉と伊藤の思想と虐殺、それに日蔭茶屋事件も知った時、大正の昔に、祖母も女の自由を求めて戦う「知性」と「魅力」を兼ね備えた強烈な女性だったことを知るに及んだのだが、今日、フーバーのマザコンぶり(ナオミ・ワッツ演じる秘書は完全な母親代り)を映画で見ていると、自分がいかに母親の呪いから自由な環境にいたのかしみじみ思い知らされたのである。「サイコ」の犯人は強い母親に人格まで乗っ取られていたなぁ

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