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【小説】いらない人間

☆☆☆
 ※不適切な表現が含まれていると自覚しています。「いらない者」というのは「コモディティ化した人間(代替可能な労働者)」という意味です。コモディティ化した自分に対する悪意のある文章になっております。
 2021年執筆。文字数は2100字程度です。

 それでは、本編をどうぞ!
☆☆☆

 001

 いらない人間は確かにいる。社会の歯車に乗せられ、誰にでも代替物として接せられ、安月給で働かされ、何の目標もなく毎日を同じように繰り返すリズムの中で生きる者たちだ。そのような人間は『いらない者』ないしは『いらない物』として生きていく。抵抗する力も鈍り、単純な労働の中で考えることを放棄する。ただただ奴隷のように扱われ、飯も食えない時給で、延々と働かされる。そうなったのは自分のせいじゃないか、と言われる声高々な説教も耳に聞こえてくるようだ。何でここまで落ちたんだろう。考えることに夢中で何一つ前進しない。私は負けた。ただそれだけだ。何に負けた? それは一つだけ。
 統合失調症だ。
 一度なってしまうと二度と復帰が困難と言われる病気に対して、私は《《復帰してしまった。》》幻聴もなく、おかしな現象もなく、かつてドロップアウトしてしまった大学の四年間も、異常な自分だったのかわからないけれど、統合失調症に落ちた。初めは大規模な宗教がらみの集団ストーカーに思われた。思われた、のではなく、《《実際に集団ストーカーはあった。》》今では死んでしまえと言いたくなるような煩わしい集団ストーカーはぱたりといなくなった、わけではない。バイト先からの帰りに、もう正職員として雇われないことが決められた時に、もう辞めようか悩んでいる時に、帰りの自転車の横で、満面の笑みでタバコを吸う人間がいて、一歩間違えれば殺してやろうと思われる境遇に出会った。私は何か罪を犯したのだろうか。

 002

 私は小説家になりたかった。理由はただ一つ。朝に起きることができなかったからだ。朝八時台に起きるとめまいと吐き気で生きている心地がしない。脳内で血管がはちきれんばかりの速度で脈を打つ。これは私と同じく朝起きることのできない、専業主婦の母親に似てしまったのだろうと思われる。
 大学は京都へ行った。大学名などどうでもよく、とにかく両親から離れたかった。高校時代から両親は、私の限界を決めてかかる存在だった。「お前は熊大にもいけない」そう言われながら私は東大を目指していた。東大を目指していたのは父親が国立大学しか進学を許してくれず、国立で東京という大都会へ行くには東京大学を目指すしかないじゃないかというあっさりとした考えだった。東京にもっと国立大学が増えてくれればいいのに。お茶の水大学レベルの男女共学の大学が増えればいいのに、と思っていた。これも神がこの世を創った際のイタズラか。私は一度も東京に住むことなく、私の人生を終わろうとしている。

 003

 こんな小枠で小説の章を変えていいものか疑問なのだが小説は自由だ。いつかの芥川賞を取ったお笑い芸人も言っていたではないか。「小説は自由だ」。これは小説なのか。人生に負け、したくもないアルバイトで生活を営んでいる精神障害者のつぶやきと言われ唾棄されても仕方あるまい。ここにあるのは、なんの面白みもなく、ただ堕ちていく闇だけが広がっていくようなそんな小説になるだろう。誰にも公開していないツイッターで「死にたい」と何度も呟いた。鍵をかけて、誰にも見られないようにして。せめて世間に迷惑を掛けないようにしながら、毎日を過ごした。

 004

 バイトと障害年金のお陰で貯金が百万円を突破した。二十六歳の現実としてはいい方ではないか。それでいて、今まで自粛していた『本を買う』という行為を再開することができた。そこで、もう一度何か文章を綴ろうとただ何となく思い立った。一人暮らしではないので、この小説もリズムが途切れたり、言っていることが滅茶苦茶だったりすることもあるだろうがご容赦願いたい。ストレス解消のために小説を書いているに過ぎない。
 かつてはネット上に小説をあげたりしていた。だが、それも辞めた。タダで自分の文章を語ることに、何の意味があるのかと、バイトして、障害年金をためて、お金の大切さに気付いたからこそ開かれた境地だったのかもしれない。それにネットは需要と供給のバランスが取れていない。異世界に行きたいのならそれでよし。VRMMOに行きたいのならそれでよし。悪役令嬢が出たいのであればそれでよし。私の小説はそこから離れる。どうしても文章が肉体から離れてくれない。本当の小説家は文章が肉体から離れ、想像力の中で力を発揮するものだと、私だって大手を振って賛同するのだが、文章が肉体から離れてくれない。だから私はネットに発信するのをやめて、出版社に提出することを選んだ。提出。レポートの提出よろしく、審査員はどこかの誰かにお任せすることにしたのだ。ネット上で馴れ合った人同士ではなく、文章だけを見てくれる人、それだけに私の思いを託した。統合失調症が復活し、文章が書けなくなっても、構成が幼稚になっても、私は書くしかない。
 だって、小説を書いていたから統合失調症になったのだもの。言語野が麻痺し、聞こえない声が聞こえてくる。この世は予定説で運命に従うしかないと感じていた、あの頃の原因は、きっと小説を書いているのに、お金が一円も貰えないという、仕事をしているはずなのに賃金が零円という矛盾した怒りの末に統合失調症はあると思っているから。

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