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面倒な"暮らし"

田舎での暮らしは不便で面倒なことが多い。生きること、食べること。生活に使わなくてはいけない時間が長い。働くのが好きなら金を増やして何もかも外注すればよいのだろうが、できるだけ働きたくないし、つまらない仕事はなおさらやりたくないので金がない。基本的にはなんでも自分でやらなくてはいけなくて、そうなるとどうしても働く時間が減っていく。


外食できる場所が限られているのでもっぱら自炊だし、気の利いたものを買おうとすれば車で1時間程度の移動はざら。

家で食べる食事には季節の野菜を多く使うようになった。東京に住んでいる頃はあまり気にならなかったが、旬の野菜が安くて、そうでない野菜の値段が上がる。季節の野菜でないと高くて買う気にならないし、季節によってスーパーの野菜の品揃えがかなり変わるので仕方がないところもある。身体のために旬の野菜を選ぶことも多い。歳のせいか、ここで食べる野菜の力が強いのか、野菜が身体に及ぼす影響が大きい。夏野菜が身体を冷やすし、冬野菜が身体を温めることが如実に感じられる。そのように食べるものをコントロールしないと寒さや暑さで体調を崩すことが確実なほどに厳しい寒暖差があるからだが。

農作物の値段の差が激しいことで、保存食作りを余儀なくされる。旬の最盛期には価格が底までつくし、友人知人から貰うことも多い。タダみたいな食材をちゃんと食べ切る為に加工して保存する。刻んで冷凍したり、塩や醤油、砂糖で漬けたりする。もともと飲食店でばかり働いていたので料理は嫌いじゃないが、梅干しも漬物もちゃんと作ったことがなくて、こちらにきて初めて作った。梅干しが可愛いのを知っていますか?干されてるところすごく可愛いから。


冬は雪かき。厳しい寒さの割に降雪量の多い地域ではないが、それでもたまに降る雪がやっかいだ。なにせ最高気温が氷点下の日も多いこの地域ではなかなか雪が溶けない。一度踏みしめた雪は気がつくと氷になり、簡単に除去できなくなる上によく滑る。とても危険で厄介。とりあえず歩かない隅の方に雪を貯めておくのが良さそうだ。そこが日向なら溶ける可能性もかなり上がる。

夏は刈払い機で草刈りをしないと、”野生”に人間の生活空間が侵される。草、蔦、虫…と順序よく活性化し侵略していく様は軍隊のそれのよう。草刈りを怠けると自宅内での虫遭遇率が上がり、生活の質が下がる。そのまま放置すれば木が生え山との境界がなくなり、猿や猪、熊がくるだろう。そうすると命の危険すら出てくる。人間は野生のうちの僅かなスペースに仮住まいしているという事実を知らされることになる。


田舎での暮らしは本当に面倒臭い。だがあらゆる自然からのリターンを自分の手で最大化し、あらゆる自然のリスクを自分の手で最小化していく術を身につけていくことで足元が静かに固まっていく感触はある。

苦手なタスクを外注し、割に得意な仕事を受注する。その究極が社会的な分業と資本主義社会ではあるが、仕事と生活の垣根を曖昧化することでやんわりとその営みから脱却することも可能だろう。それがもともとの意味での”暮らし”に近いところかもしれない。よかったら、今度一緒に薪でも割りましょう。

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