最近の地域政策事情:ふるさと納税の増加について

    7月29日に「ふるさと納税に関する現況調査結果」が公表された。令和3年度のふるさと納税の受入額は8302億円、受入件数は4447万件となり、いずれも史上最高を更新した。特にここ3年間の伸びは著しく、令和元年度と比べると受入額、受入件数ともに倍増に近い勢いである。過度な返礼品競争になることを抑えるために国が一定の歯止めをかけたものの、とどまる気配がない。むしろ、絶妙なバランスの基準を設けた、と評価されるのかもしれない。

    注目したいのは、この8302億円を受け入れるために3851億円を要していることである。ふるさと納税を増やすには、今や専用サイトに登録するのが必須だ。もちろん、返礼品の購入や送付も費用である。返礼品そのものは上限となる寄附額の3割程度かかるが、それ以外の費用も大きく、トータルで寄附額の半分近くに及んでいるのである。つまり、ふるさと納税の半分は寄附の経費として自治体の収入になっていない、ということになる。

    そして、ふるさと納税による住民税の控除額は5672億円に達する。これは、他の自治体がふるさと納税によって失う税収だから、これも経費と見れば9523億円となる。ふるさと納税の収入を1200億円上回る経費がかかっている、ということになるだろう。

   私は、「税収全体としては赤字だからふるさと納税はやめた方が良い」と言いたいわけではない。大都市と地方の税源配分の変化、魅力的な返礼品の開発、魅せ方の工夫など、ふるさと納税にはプラスの要因もあると考えるからだ。しかし、やはり1200億円は大きい。もっと大きなプラス要因を打ち出すべきではないか

    それは、政策競争である。ふるさと納税で得られた収入の純増分を何に充てているか、多くの自治体は公表しているものの、きわめて大雑把である。ふるさと納税のサイトで多く見るのは「子育て支援」「観光開発」「市長お任せ」などから選ぶものであろう。しかし、これらは当然、自治体の固有財源でも行っている。そこに、ふるさと納税で何をプラスアルファしたのか、それが本当に金額に値するものなのか、実感の持てる政策として納税(寄附)する形にしなければ、本当に単なる返礼品目当てになってしまう。

    そして、「こんなに魅力的な政策ならふるさと納税したくなる」というものであれば、他の自治体も追随して各地の政策レベルが上がっていくだろうし、ふるさと納税で税収が流出した自治体にも政策のレベルアップという形で還元されるだろう。ふるさと納税の増加は、納税意識の低下をもたらすものであってはならない。ふるさと納税が返礼品競争だけに終わると、その危険性は高まる。政策競争につながることが、税収全体としては赤字でも続ける意味が出てくるのではないだろうか。

    ふるさと納税のサイトと自治体が連携して、このような取り組みを大々的に進め、地方発の工夫を蓄積していってほしい。

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