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地方公務員が読んでおきたい書籍の紹介:加藤崇「水道を救え:AIベンチャー「フラクタ」の挑戦」新潮新書、2022年

 地域住民アンケートで「政策分野別満足度・重要度」の調査をすると、ほとんどのケースで水道はいずれもトップになります。人が生活するのに水は絶対に欠かせないものですし、水道は「使えて当たり前」の状況になっているので、そのような結果になるのも当然と言えば当然です。

 しかし、実は水道事業は自治体が運営していながら税金ではなく料金収入を財源としているため「公営事業」となっています。しかも、誰にも必要なものなので料金水準も低くする必要があるため、運営は決してラクではありません。むしろ、料金を必要以上に抑えて、費用も必要なものにもかけずにいるのです。その歪みが最も端的に現れているのが、水道管の更新の遅れです。

 著者は、更新を必要なものに絞るためAIを使って正確な劣化予測を立てる事業を営んでいる方です。確かに水道管は地中に埋設されていて外からは見えないので、劣化しているかどうか確認することは困難です。しかも、水道管が同じ材質のものでも埋められている土の状況によって劣化の度合いも異なるため、「〇〇年経った水道管は更新が必要」と一律に決めることは合理的ではありません。まだ使える水道管でも更新したり、もう使えない水道管が放置される、ということが起こるからです。それは水道事業の満足度を下げ、無駄な費用となるので、良いことはひとつもありません。

 そこで、水道事業の民営化なども模索されていますが、利益重視の民間企業に水道供給の安全性を委ねることに住民の懸念が残り、反対の動きも見られます(行政への信頼は、なお残っていると思うところです)。こうした状況の中で、筆者が進めている取り組みは必ずしも民営化を必要とするわけではないですし、きわめて合理的な方法で水道事業の安定化を図るものとして注目されます。

 なお、こうした取り組みは、人口見通しと公共施設を組み合わせると、より幅が広がりそうな気がします。私たちの生活に必要なのは水道はもちろん、道路や公園、各種公共施設などさまざまあり、いずれも更新のための費用捻出に苦慮しています。これらの劣化予測も組み込み(目で分かるものはAIを使わなくても可能かもしれませんが)、さらに人口見通しも加えれば、「このエリアは〇〇年後には人もほとんどいなくなるし多くの施設も使い物にならなくなるから、更新は断念する」といった判断が可能になります(冷酷な話かもしれませんが、人口減少で避けることは不可能だと思います)。

 繰り返しますが、水道事業は生活に必須のものであると同時に更新の必要性が分かりにくいため、筆者の取り組みは大きな意義があると思います。まずはこうした取り組みを知り、水道事業を運営する自治体だけでなく料金を負担する地域住民にも水道事業の将来を考え、当事者として対策を検討するきっかけとして本書が多くの方に読まれることを期待します。

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