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地方公務員が読んでおきたい書籍の紹介 上林陽治「非正規公務員のリアル-欺瞞の会計年度任用職員制度」日本評論社

「非正規雇用と正規雇用」の「仕事と待遇」が逆転している?

 前回は公務員のリアルな姿を紹介する書籍を取り上げたが(前回投稿へのリンク)、今回は地方自治体の非正規職員の実態を明らかにしたものを紹介したい。
 私が地方公務員として勤務していた頃から、非正規職員は増えていたように思う。実際、同じ部署で一緒に仕事をしたこともある。しかし、当時はまだ例外的な存在だった。しかし、今は多くの部署で貴重な戦力として貢献している。正規職員の減少が進む中で、それ埋め合わせるかのように非正規職員は増えているというデータが本書でも示されている。
 とはいえ、非正規職員は正規職員の代替とはなりえない。そもそも人件費が大きく異なる。非正規職員の人件費は年間200万円程度と、正規職員の3分の1に過ぎない。この収入では生活も苦労するだろう。もし完全な代替が期待されているとすれば、待遇が正規職員の3分の1ではあまりにも行政にとって都合が良すぎるだろう。会計年度任用職員という新たな制度が始まったが、待遇がかえって悪化した例も本書で紹介されている。
 さらに、本書では非正規雇用は代替の役割を果たすのではなく、独自の役割を与えられながら増えていった点も指摘されている。それは、相談業務の広がりなどによる専門人材としての役割である。


 本書によると、格差による貧困問題や自己責任意識の強まりにより、国の制度化によて自治体で各種の相談窓口が設置された。その相談業務に、資格を持った非正規職員が充てられているのである。
 正規職員は異動を繰り返しジェネラリストたることを要請されているから、分野を限定した専門人材として特定の部署に定着することはない。そこで、非正規職員が専門性を要する相談業務に従事することになった。もちろん相談を所管する部署にも正規職員はいるものの、資格もなく専門人材でもないから、相談業務は行わない。したがって、相談を所管する部署では上司である非専門家の正規職員によって専門家の非正規職員の雇用が左右される、という歪んだ形になってしまうのである。端的に言えば、雇用の質と職員の資質が逆転した、歪んだ組織の中で仕事をしていることになる。こうした職場環境は、非正規職員の不安や不満を高めてしまうだろう。
 しかも、相談業務は縦割り組織の中に置かれるから、さまざまな面で困難を抱えている人々への対応が分断されてしまう。つまり、行政機関は縦割りによる組織間の断絶と正規・非正規による組織内での断絶の両方に直面していることになる。これでは救いを求める住民に対して相談業務が十分に機能するのか、甚だ心許ない。

何が解決策なのか? -雇用のあり方から、社会のあり方へ

 本書の著者は、課題解決の糸口として相談業務の総合化と限定ジェネラリスト化を挙げている。職務限定・異動限定の専門職型公務員という新たな類型の正規公務員が必要だと述べる。確かに相談業務は非正規雇用に過度に依存して成り立つものではないだろう。その意味で、著者の提案は正しいと思う。
 ただ、こうした問題は雇用のあり方だけで解決するものでもない。本書は雇用に焦点を当てているから雇用面での対策を述べていると思うが、根本的に雇用のあり方を決めるのは仕事のあり方であり、根本的には行政や社会のあり方であろう。行政機関がどのような役割を果たすべきかが決まって、それを遂行するための組織や雇用のあり方が決まる、という順序である。だとすれば、さまざまな分野で相談窓口を設けなければならないような社会や行政でよいのかを考えることが重要になるだろう。類似のテーマを扱う書籍にも目を通し、幅広い視野で今後も考えていくべきテーマである。


 最後に、前回紹介した書籍と同じ感想を持った点を挙げておきたい(前回投稿へのリンク)。それは、「行政は民間企業に率先して…」ということが逆になっている、ということである。
 本書の著者は、会計年度任用職員制度の改正には次のような欺瞞が大いにあるとしている。①官製ワーキングプアの法定化②手当等を限定でき、差別の合法化③任期更新のたびに試用期間が置かれ、理由なく解雇できるという権利剥奪の立法化。これは、民間企業に求められている取り組みを下回っているのではないか。
 霞が関でも驚くような労働の実態が前回の書籍で明らかになったが、私たちに身近な自治体の現場でも非正規雇用の職員がきわめて厳しい状況に置かれていることが分かった。もちろん行政機関の事情は考えなければならないし、改革には時間がかかるとしても、「行政機関にできないことを民間企業に押しつけるのはいかがなものか」と思う方も多いだろう。
 これまで、雇用環境はコスト縮減の圧力で悪化してきた面は否めない。ここまで雇用環境に歪みが生じてくると、そろそろ税負担にも切り込むべき時期に来ているのかもしれない。

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