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地方公務員が読んでおきたい書籍の紹介:熊田安伸「記者のためのオープンデータ活用ハンドブック」新聞通信調査会、2022年

 行政機関がデータを利用しやすい形にして公開し、利用者のさまざまな分析を促す「オープンデータ化」の取り組みは、すでに広がっています。本書はそうしたデータの紹介が中心ですが、全体を読むと「公開されたデータだけでも分かることは結構ある」ということが非常に良く理解できます

 著者はジャーナリストです。その仕事は、世の中が知りたいことを他に先んじて伝える「スクープ」を探すことにあると思います。しかし、それは以前のように特定の人物との関係を深めて情報を引き出すとか、何らかの現場に潜入して実態を世に知らしめる、という手法だけでなく、実は公開されているデータを駆使しても分かることは多い、と著者は考えているでしょうし、実際そうした報道の紹介も豊富に盛り込まれています。

 地方公務員にとって、ジャーナリストは「敵」という一面もあります。行政機関の不正や怠慢は格好のスクープ記事であり、それを暴かれるのは地方公務員としての命運を左右するからです。読者の興味も大きく、報道によって公務員バッシングが強まれば、たとえ一人の公務員を取りあげた記事でも公務員全体の信用を損ねてしまうわけです。本書でも、公共事業や予算などを調べる方法が紹介されていますが、著者にとって仕事の対象でもあるからでしょう。

 しかし、公開されたデータで何かを明らかにすることは、地方公務員の仕事でも非常に大切なことです。地域に何が起こっているのか、地域の人たちが何を求めているのか、などを明らかにするには、お決まりのパターンはあるかもしれませんが、それはどの自治体でも行っているから差別化が起こりにくいでしょう。大競争の時代に自治体が持続するためには、独自の手法とアイデアで他には真似のできない政策を打ち出していくしかありません。そのためには分析にも工夫が必要で、本書にはそのヒントが満載だということができます。

 例えば、企業に関する情報などがそうです。個々の企業がどのような活動をしているか、地方公務員の日頃の仕事からは知りえないことが多いのが現実です。特に人口の少ない自治体では、個々の企業の動向が地域の命運を左右する可能性があります。あるいは、どの分野に力を入れれば地域が持続するかを考える際にも、個々の企業の活動を知ることは大切になるでしょう。こうした時に貴重な情報源を示してくれるのが本書です。著者はジャーナリストだから地方公務員が必要な情報を詳細に紹介しているわけではないものの、情報の所在を示すヒントも随所に散りばめられています。地方公務員にも有益だと思います。

 そして、全国の約270万人の地方公務員が、こうした情報源を共有するまでになれば、地方公務員による地域政策の質も大きく向上するのではないか。そうした期待も込めて、本書をオススメしたいと思います。

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