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今も昔も愛おしくなる喫茶店

「どっちがいい?」
25年生きてきて、幾度となく回答に頭を抱えてきた質問だ。

犬か猫か、恋と友情、お金かやりがい。
この手の質問は非常に厄介だと思っている。

単純に答えを出せるはずがないのに、なぜか優劣をつけることが好まれるからだ。

「どっちも大切」「時と場合によるんじゃない?」
などと答えようもんなら、たちまち後ろ指をさされる。
回答から逃げるいい加減なやつとして。

なのでいつも渋々選んできた。
自分ははぐらかすつもりなんてない、という意思表示のために。

ところが、高山珈琲(神田)でツナサンドを食べながら悟った。
「どっちも好き」が逃げなはずない、と。

食べログ百名店の高山珈琲は、ネルドリップのコーヒーとトースト系メニュー、自家製チーズケーキを提供している。
平日のみ営業にもかかわらず、客足の耐えない名店オブ名店だ。

存在を知りつつも、平日に働くわたしにはなかなか手のとどかない存在だった。
いつか、有給とって絶対に行こう。
外の世界を夢見るラプンツェルの如く、高山珈琲への想いを募らせていた。

三月某日、ついにチャンスが到来。
所用で半休を取得したところ、予定が大幅に早く終わってくれた。
考えるよりも早く、身体が意中の喫茶店へと向かう。

予想どおりの行列だけれど、くじけるわけにはいかない。
待つこと一時間弱、ついに入店。

内装に、ひとしきり見惚れたあと、早速オーダー。
ブレンドとサンドイッチを。

ブレンドコーヒー 600円

▪︎ ブレンドコーヒー
「コク」以上。決してふざけてなどいなくて、この二文字にまさる表現が見つからない。
2、3年熟成させたオールドビーンズを使用してるだけあって、渋くて深い。それでいて優しいお味。
わたしが後20歳くらいお姉さんだったら、こんな男性とお付き合いするんだろう。いやむしろ、自分がそうありたい。
なんて考えると、歳を重ねることにワクワクする。渋い喫茶店でコーヒーを啜り、憧れに近づけるよう精進するのみ。

ツナチーズサンド 700円


▪︎ ツナチーズサンド
「えっこんなにいいんですか?」
運んでくれたお姉さんに、思わず訪ねそうになった。
それほどのボリューム。ひと切れの存在感。
おまけに、サービスでリンゴジュースまでついてきた。こんなの初めて。
具材もふんだんに盛り込まれている。
大粒のツナ、いま摘んできたけど?といわんばかりに新鮮なレタス。
食パンは、サックサクにトーストされぬかりがない。

なるほど、これはリンゴジュースと合わせるべき。
レタスとリンゴが手を取り合って、新鮮さに拍車をかけているのが楽しめる。
ホームズにはワトソン、春日には若林。
そして、サンドイッチにはリンゴジュース。

いつからだろう。わたしは固定観念に縛られていた。
「パンにはコーヒー一択。」と。
子供の頃、朝食にはトーストとリンゴジュースが定番だったのも忘れて。

大人になるほど、新しいことを経験し、知見は広がっていく。
喫茶店にハマり、苦手だったコーヒーは、いつしか生活の糧になっていた。
うれしい反面、昔の自分を否定することにも繋がっていたようで。
トーストにはコーヒーと相場が決まってる。
リンゴジュースなんて子供っぽい。
すっかり社会に適応してしまったわたしは、早々と優劣をつけていた。

でも、ようやく気づいた。そんなわけがないだろう。

コーヒー、リンゴジュース。
どちらもトーストには欠かせない。
むしろ、両方味わえるようになったことをもっと喜べばいい。

子供の頃、おかんが用意してくれた朝食のトーストとリンゴジュース。
大人になった今、喫茶店で食べるサンドイッチとコーヒー。

目的の違う二者に甲乙をつける必要は、果たしてあるだろうか、否。

深みと優しさを兼ね備えた大人になりたい。
未来を夢見るあまり、過去をおざなりにしていた自分を恥ずかしく思う。
過去を大切にしない人間が、深みのある大人になどなれるはずがない。

渋いコーヒーとともにフレッシュなリンゴジュースも提供してくれる高山珈琲。
きっとマスターはわかっているんだろう。
人生にはいずれの時期も必要であることを。






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