[提言]ワクチン接種を医療改革の視点から考える

 ワクチン接種の人員体制の整備のためには医療資源の効率的な活用が望ましい。
 英国をはじめ先進諸国では、医師から看護師・薬剤師へのタスクシフティングが進んでいるが、一例として日本で禁止されている薬剤師による注射が認められている。アメリカのドラッグストアではふだんから薬剤師が予防注射もしているし血液検査の採血もする。
 新型コロナウィルスワクチンの接種体制を構築するに当たり、医師や看護師が動員されることになるが、いまのところ薬剤師は制度設計に組み込まれていない。なぜなら日本では医療の現場では薬剤師は注射ができないからだ。医師でなくても看護師が医師の仕事を肩代わりできる部分があり、また看護師でなくても薬剤師がその仕事を肩代わりすることが可能な範囲がある。こうした分業可能な範囲を定めればタスクシフティングにより業務の縦割りを廃して医療資源が効率的に配置できる。
 ワクチン接種の実施方法の策定では、薬剤師が研修を受ければ注射ができる特例を設けるなり、医師や看護師の補助要員として注射器にワクチンを注入する業務を担当するなり、直ちに不足する人員を補う準備をして迅速かつ大規模な接種体制を実現すべきだろう。
 
 この提案は医療体制の構造改革の視点からも重要と考える。現在、薬剤師数は医師数と同等の三十余万人である。人口一〇〇〇人当たりの薬剤師数は日本はダントツで世界一である。
 二〇〇六年から薬学部の大学就業年限は六年に伸び医学部と同等になり、定員も大幅に増え薬剤師量産体制がつくられた。にもかかわらず大量生産された薬剤師の就職先は門前薬局であったりドラッグストアであったり、必ずしもそれほどの専門知識を要するわけではない。
 病院・診療所での院内処方から薬局での院外処方へと切り替える過程(薬価差益で儲ける薬漬け医療からの近代化政策)で、薬局側が報酬として受け取る患者・保険者負担の技術料は増大しており、薬局調剤医療費八兆円(薬剤料+技術料)のうち技術料が一兆九〇〇〇億円にも達している。
 棚から包装されたシートを取り出して輪ゴムで括り患者に渡すだけで支払われる技術料が適正なのか。薬局は対価に見合うだけのサービスができているのか、問われている。
 新型コロナの蔓延という有事のいまこそ薬剤師の役割を見直し、硬直的で無駄のある医療資源を効率的に配置する機会ではないか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?