言葉の作用

 シンナーを嗅ぎながらこの文章を書いている。外壁工事の為に有機溶剤のにおいが部屋に充満している。築年数の古い賃貸マンションに住んでいる自分は自宅をどのように扱うか意思を尊重されることもなく、ただ掲示板に貼り出される紙で進捗を確認するのみである。家が綺麗になるための工事であり、オーナーには部屋の設備不良を何度か迅速に対応してもらったので不満はないが匂いに敏感な自分にとってあと二ヶ月これが続くのはなかなかにつらい。

 この話はもうこれ以上はくさいのがつらいよという以上のことは無いのだけれど、書き出しというのは色々なものがあるなぁと近頃考えている。

 小説の冒頭に差し込まれるメタ視点の序文。全体にトリガーのように作用していく。もっと短い文の中でも色々とある。文によって文の意味が変わるし、単語と単語の関係もまた小さなそれである。入れ子というかチェーンというか当たり前ではあるが、複雑に絡み合っている。

 逆立ちして俺の口から飛び出してくるものは広辞苑でなく、使い古された数冊のノートである。

 そう言って不勉強な自分をどうにか肯定してやろうという浅はかな考えである。

 今自分はやむにやまれぬ事情から、という状態で書いている。

 どうしたって言葉そのものがリレー、意味からは逃れられない。

 この匂いずっと続くの大丈夫かなぁ。溶剤の匂いが肺に溜まると胸がふわふわした感じがする。恋のあれと似ている。かつての不良たちは恋にあこがれていたのだなぁ。

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