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『ウクライナを知るための65章』環境変化で緊急重版されることになった(環境研究)

 ウクライナという言葉の語源が、「分かつ」(クライ)を意味し、辞書によると、①何かの表面を区切る線、またはその線に沿ってあるもの、②一片、一塊、③終わり、④国、⑤一定の自然および気候的特徴を持つ地方、州、地区等とある。この地は歴史的に、以下の3つの勢力の重ね合わさる地域だった。

1)モスクワ・ロシア
2)クリミア・タタール、オスマン・トルコ
3)リトアニア・ポーランド

 1)から見ても、2)から見ても、3)から見ても、諸国間の係争が絶えない危険な国境地帯であり、「荒野」と呼ばれていた。
 また、ウクライナの国旗の2色は、上半分が青で下半分が黃のもの(現在の国旗)、逆の上半分が黃で下半分が青のものがある。後者はドイツの影響からだという。

 意外だったが、ウクライナはロシアを除くヨーロッパ諸国の中で最大の国土面積だ。この本にはないが、ウクライナのチェルノ―ゼムという真っ黒い腐食土は、世界で一番肥沃な土で、夏場の乾燥期には植物痛いが分解しにくい。逆に日本のような夏に蒸し暑いと微生物の分解活動はピークを迎えるが、ウクライナや北米プレーリーのような寒く長い冬と乾燥する短い夏の地域では、土に含めれる微生物が植物遺体を十分分解できない。そのため5年かかってもとうもろこしの葉が半分しか分解されないという。チェルノーゼム地域では、微生物の代わりに、ミミズが植物遺体をそのまま食べ、腐植と粘土の団結力の高い通気性、廃棄水性に優れた団子状の土になる。まだ、ジリスやプレーリードックが土を耕す。これらの働きが真っ黒で肥沃なチェルノーゼムを生み出す。これがウクライナが「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれる所以だ。

 「産業のパン」は石炭を指すが、ソ連時代にドンバズ地方はソ連全体の60%、鉄鋼の34%、粗鋼の23%、コークスの50%を生産していたという。この地は、大飢饉ポロドモール(スターリンによるジェノサイド)でも多くの犠牲者を出し、内戦、大飢饉、独ソ戦と幾度も人口減少した。その度に各地から石炭鉄鋼産業の労働者が集められ、ウクライナ、ロシア人だけでなく、ギリシヤ人、タタール人、アルメニア人、ユダヤ人などの労働者が混在する地域となった。
 オデッサでは、ロシア帝国内で起きたユダヤ人迫害「ポグロム」が多発した。迫害されたユダヤ人は、差別や制約が軽微だったオデッサを目指したため、1897年には総人口の34%を占めていた。ウクライナの各地域は、それぞれ特徴を有しているが、1)2)3)という外部要因②影響されたものだ。

 著者は、最近の日本では学問の中で文系が軽んじられているため、こういう地域研究はマイナーだとし、2011年から企画が進行していたのに2014年のクリミア併合に間に合わず2018年に発刊されたことを後悔している。しかし、2022年のロシアの侵攻により、皮肉にも緊急重版されることになった。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。