『鶏小屋オフィスへの投資と日本のベンチャーキャピタル』(イスラエル)
『多産多死と己の失敗』 で、第1ステップと第2ステップのイスラエルビジネスの失敗経験をいくつかご紹介したが、第3ステップではトライアングルインベストメント(『性悪説からのシステムとマザルヴェブラハ(mazar be bracha)』) と名付けた投資事業を行った。
今もそうかも知れないが、日本の大手ベンチャーキャピタルのイスラエルのStart-upへの投資は消極的な会社(判断できない)がほとんどで、当時は第1次インティファーダの最中なので今より不透明感の強い状況だった。
そんなとき、投資ターゲットの1社を訪問し、製品のデモを見せてもらったのだが、その最中に足元に猫がたくさん集まってきたことがある。
平屋の1軒屋を改装した質素で綺麗なオフィスだったが、以前は鶏小屋で、その匂いに釣られて近所の野良猫がオフィスにたくさん隠れていて、物珍しい日本人の私を見学に現れたようだ(笑)
Start-up企業のオフィスは経営者の性格を表すことがある。
あるオフィスはオスマントルコ時代の石のオフィスで、円形の天井が高く、夏でも涼しいのに驚いたことがある。
当時は名古屋に住んでいたため、ベンチャー企業から世界的な大企業になったトヨタ自動車の3階建て(4階建て?)の豊田市の本社ビルのように、必要のないものにはお金をかけない方が利益を生むという固定概念があったためだろうか、オフィスに必要以上にお金をかけているStart-upには疑問を持っていた。
日本にベンチャーキャピタルというビジネスをビルトインしたのは日本合同ファイナンス(JAFCO)を創業した今原禎治氏です。
日本のベンチャーキャピタリストのルーツである今原氏が、投資をしてはいけない経営者として以下の2つを挙げている。
髭を生やした経営者
名刺に○○博士とタイトルにしている経営者
日本人経営者という前提だろうから、今の時代に通用しないルールかも知れないが、この2つに共通するのは「虚栄心」や「見栄」が強い経営者だということだろう。
ユダヤ人が頭の上にキッパーという丸い布を付けている姿をご覧になったことがあると思うが、頭上に神がいることを意識することで、「虚栄心」(vanity)などを抑えるためのユダヤ人の知恵のひとつだ。
必要以上にオフィスを飾る心理にも「虚栄心」や「見栄」に通ずるものがある。Start-up企業が巨額な投資を受け、オフィスを引っ越し、必要以上に改装した知らせを受け取るたびに思い出すのは、会田雄次氏の以下の言葉だ。
メールも、グループウェアもコミュニケーションを密にする道具だとすると、狭いオフィスでの「大部屋方式」の利点をデジタル化したものに過ぎない。
話が飛んでしまったが、この鶏小屋のオフィスのStart-up企業に日本のベンチャーキャピタルを紹介することにした。
最初の1社は私の会社のリードインベスターが投資を決断してくれた。前述の今原氏が発案した投資事業組合の資金でなくベンチャーキャピタルのプロパー資金だったのかも知れないが、その会社にとって、はじめてのイスラエル投資案件なので、説得には苦労をした。
その後、野村証券系や他のベンチャーキャピタルが横並び投資をし、結局日本から十数社程度の投資資金が集まった。
十数社から投資資金が集まった理由は「ので理論」を使ったからだ。この理論は、プロジェクト推進のひとつのテクニックだが、すべての会話や稟議書などの文書を「なぜなら、~なので」という表現にするだ。すると日本人は判断が容易になり、以下のような連鎖が起きる。
「0 to 1」の後は、日本から遥か8500km以上離れたイスラエルへの投資にもかかわらず、この魔法の言葉でたくさんのお金が集まった。ここで投資をしたベンチャーキャピタルのすべては、はじめてのイスラエル投資で数十倍のリターンがあった訳だが、実は最初にリスクテイクをしたのは破綻前の山一証券系(山一ファイナンス)だったのだ。
Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。