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『多産多死と己の失敗』(失敗研究、イスラエル)

 なぜイスラエルはStart-up Nationと呼ばれ、多くのベンチャーが起業されるのだろうか。

 1)国民皆兵制、2)ペレストロイカでロシアから優秀な移民が急増、3)周りが敵だらけ、という通説があるが、スイスや韓国なども1)国民皆兵制ですし、最近のドイツは 2)移民が急増しているし、北朝鮮なども 3)周りは敵だらけだ。

 私はこれらとは別の2つの大きな要因があると考えている。

 砂漠に雨が降るのは年にほんのわずか。降った瞬間に水を吸い上げ、花を咲かせ、子孫を増やす。その一瞬で春には砂漠も緑になるそうです。晴れが続く夏は、枯れているように見えて、ひっそりと息を凝らして生きているのです。その生命力がすごい!枯れ枯れになった木の枝をくれました。ホテルに戻ったらコップに水を入れコレを浸すと花が咲く!本当に枯れ枝なんですが・・・実際やってみると、本当に赤い花が咲きました。

 ひとつは逆境だ。

 イスラエルを訪れた人は水の少ない砂漠なのに緑が多いのに驚くが、彼らは砂漠を緑化するシステムの数々を創造した。なぜなら創造しないとあの土地では生きていけないからだ。そして民族の歴史そのものも逆境の連続だ。

 もうひとつは旧約聖書(タナハ)だ。

 旧約聖書は、人間の失敗の記録がつづられているが、彼らはこれに向き合いながら現在や未来を思考するとなると、ゴールドラット博士の次の名言は、人生や生活に浸み込んでくる。

愚か者は失敗に学ばず、才人は己の失敗に学ぶ。そして賢人は、他人の失敗からも学ぶのだ。

 例えば、イスラエルの敬虔なユダヤ教徒の取引先と日本の居酒屋で飲んでいるとき、突然旧約聖書のことが話題になり、彼は「旧約聖書はシステムだ」と語り出したのだ。普段の生活の隅々に旧約聖書が浸み込んでいると感じたと同時に、旧約聖書がシステム?とはどういう意味だろう、と大きな疑問が湧いた。
 イスラエル人とビジネスを行ったり、旧約聖書を何度も読んでいるうちに、「なるほど」と納得した経験がある。

 余談だが、モーセ五書(旧約聖書の律法)はペルシャ帝国がユダヤ人を統治していたころ、ユダヤ民族の統治テクニックとして生活を律する中心となるものを、ペルシャ官僚だったユダヤ人エズラに命じ、編纂させたもだ。

 となると、皮肉にも現在のイランが旧約聖書に権威を付与した(キリスト教におけるローマ帝国の役割と同じ)生みの親ということになる。

 さて、本題に戻る。

 一流の大企業における新ビジネスの成功の確率、あるいは有名なシリコンバレーのベンチャーキャピタルの投資案件が成功する確率はどのくらいなのだろう。
 マーケットエントリーコンサルティング(Market Entry Consulting)を行っている友人は、イスラエルと契約するなら最低3つは契約すべきだ。なぜなら、そうすれば1件は成功するから、と。

 イスラエルに限らず多産多死が当たり前なのがStart upと考えておいた方が間違いない。

 私の経験からもこのことを考察してみる。

 次に30代のイスラエルの仕事を行うときは、資本を増強しゼロから仕組みを作り、ある販売会社に2万本の販売契約をしたのですが、資金回収の途中に無理な形で買収されそうになってしまいました。ちょうどその頃はバブル崩壊後で体力もなく、結果的に継続を断念しました(リードインベスターとメインバンクも破綻)。

 また、「自由への逃走とイギリス」で紹介したリソーススケジューラは契約締結し販売開始後にフォーカスする分野を絞り込んでしまったため、契約当初に計画した分野への適応が難しくなりました。

 その製品は、TOCの創始者のゴールドラット博士も開発していたリソーススケジューラの一種でした。ゴールドラットさんのスケジューラ(Optimized Production Technology)は製造現場にフォーカスした生産スケジューラでしたが、後にその基礎理論を『ザ・ゴール』として出版し、そちらの方が世界的に有名になりました。この製品は当初はリソースを選ばないリソーススケジューラとして設計されていましたが、後にスキルを加味したサービス要員にフォーカスしたサービススケジューラとなり、この会社はNASDAQへIPOしました。

 イスラエルには、IBM、マイクロソフト、インテルなどのR&Dセンターがあります。そのR&Dセンターのエンジニアにオブジェクト指向を教育する専門の会社とも販売契約をしました。この教育コースウェアは当時IPAが出資する地域ソフトウェアセンター(全国14センター)へ配布するJavaの教育コースウェアとして採用されることになりました。当時は国策的にアラブボイコットの影響もあったので、MITI中東アフリカ室にもイスラエルとのビジネスことを理解していただこうと足を運んだものです。
(今では考えられないことですが)

 その他、通信系で1社、開発ツール系で1社の計5社の販売契約を行いソフトウェアを日本語化しました(日本語化はイスラエルでオフショア開発)。そして、別の1社へは日本のベンチャーキャピタルと組んで投資を行い、数年後に無事NASDAQにIPOしました。

 このように私の経験からも、単なる販売契約ですら成功する確率は100%でないことは確かだ。しかし、最低3社と契約すべき、という頭の良いイスラエル人の友人の言葉はそのまま鵜呑みしない方がいい。そして、イスラエルとのオープンイノベーションを成功させるためには、いくつかの必要条件を満たす必要があることも「己の失敗」から学ぶことができた。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。