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『天井のない監獄 ガザの声を聴け! 』ガザという地方の創生という発想が必要(マスクドニード)

 日本人でパレスチナ問題に興味を抱いている人は一定数いるが、ガザを訪れたことのある人は少ないだろう。かくいう私も、パレスチナは西岸地区を訪れたことがあるだけだ。この本は、UNRWA(国連パレスチナ難民救済機関)の医師が書いたものだが、ガザの実情をリアルに描き出していて、出版した集英社には敬意を表したい。

 ガザはかって、イチゴの産地として知られていたそうだ。また、地中海に面し漁業も盛んだった。しかし今は、イスラエルによって空港は破壊され、港湾からの輸出も禁じられ、エジプト国境にある検問所も閉じられて、完全な「陸の孤島」と化した。

 2015年、3人のガザの中学生が日本に来日した。東日本大震災で傷ついた日本を励ますためのメッセージを伝えることが目的だった。ガザの中心部にハンユニスという、日本の支援でできた診療所や学校がある地域がある。そこでは、2012年から毎年3月にハンユニスの子どもたちが、日本への感謝を込めて凧揚げを行っている。その3人は、イスラエルのテルアビブ空港を使うことができないため、ガザ→イスラエル→西岸地区→キング・フセイン橋→ヨルダン→アンマン→日本というルートで、5つの検問所を通過しなければ海外に出ることができない。3人の中学生は釜石に到着し、凧揚げをしたのだ。

 ガザは1日に2時間から3時間しか電気が使えない。ディーゼル発電機の燃料輸入が制限されているからだ。この状況は映画『ガザの美容室』でも描かれているが、上下水道の多くも破壊され、水道水は塩気が強い。実は私にはひとつの妄想がある。それは、久米島で行われている海洋深層水発電と養殖事業を地中海に面しているガザで行うことができないかというものだ。電気も水も、産業も海という資源を使えば生み出すことができるからだ。

 ガザの失業率は44%、若者の失業率は60%を超え、世界最悪と言われている。しかし、いくつかの希望はある。例えば、前述のようにリアルに国外に移動しようとすると、5つの検問という壁があり、許可がないと国外には出れないのがガザだが、インターネットは繋がっているのだ。したがって、人手不足で困っているイスラエルとガザをビジネスでつなぐことは不可能ではない。また、ガザでは電気ガスの供給が不自由なので木材を燃やすことが多い。そうすると多くの灰がでるので、それをコンクリートの材料にすると、強度は同じで半分の重さのコンクリートブロックができる。このアイデアを事業化したのは、22歳の土木工学を学んだ女性だ。

 ガザのパレスチナ人が共通に求めるものは、「人間としての尊厳が欲しい」ということに尽きる。日本はイスラエルに対してもパレスチナに対してもガザに対しても、政治的に中立的な立場だ。しかも、ユダヤ教、イスラム教という宗教に対しても中立的だ。(日本人のマスクドニード)
 日本は人口減少を迎え、地方創生が叫ばれている。しかし、日本の地方というの視野だけでなく、ガザという地方の創生ということも、頭の片隅に入れることができるコスモポリタンでありたいと、常々思うのである。本書はその認識をさらに強くしてくれる1冊だ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。