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『経済学の船出 創発の海へ』ブランドを顧客創造の結接点とするESGブランディングについての考察が欲しかった(環境研究)

 安富歩氏の主張する関所経済学を知りたく読んでみたが、銀行の機能が通行料を徴収する関所と同じであるという下りは理解できるが、資本主義全体に適応できるかどうかには疑問がある。関所資本主義の基礎は、供給者と需要者との直接的なやりとりを何らかの方法で妨害し、コミュニケーションの結節点を作り出すことだという。しかし、ブランドの出現により関所が崩壊し、社会の富の基本形態は商品でなくブランドに転換した。そしてブランドは、顧客との長期的な関係を築くコミュニケション場だとしている。

 利潤を獲得するためにブランドを関所化してしまうと、コミュニケーションが止まって、金の卵を生む鶏を殺してしまうことになり、これがブランドマネジメントの一番難しいところとしている。これを防ぐにはドラッカーが示すように、利益が企業の目的でないことをしっかり認識する。つまり、顧客の創出に目的を置き、創発を阻害する要因を取り除くことがブランドマネジメントなのだ、と。私の意見は、ブランドを関所化しない方法として、一律に考えられるESGブランディングがあると思うが、本書にはそこまでは踏み込んでない。

 最後に、専門家としての大学の研究者は、19世紀以来、真理の探求とアカデミズムの創造的発展として、重要な役割を果たしてこなかったとし、逆に果たした人物のリストを歴史を追って提示。この一覧には大学教員や研究者の道を歩んで、無退官まで勤め上げた、いわゆる正統派の学者は一人も含まれていない。つまり、大学はアカデミズムの重要な創造拠点ではなかった、と。

 経済は人間社会の一側面で、貨幣を中心軸とした経済学でなく、ドラッカーの目指した社会生態学を「経済学の船出」と位置付けているのだろう。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。