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『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』アクイハイヤーは重要な人材戦略(居をかえる)

 この本で、「越境学習」という分野があることをはじめて知ることになった。そのルーツはロシアの心理学者であるヴィゴツキー。彼のアイデアは、子供の発達は「先生が教えてできること」が「ひとりでできるようになる」という従来の考えを拡張し、この間に「仲間と一緒ならできること」があり、それを「最近接発達領域」としたことにある。

 従来のように「学び」を個人の閉じたものとして捉えるのではなく、集団とのやりとりを前提としたアイデンティティを形成していくプロセスとして捉えていることが、越境学習につながった。

 フィンランドの成人教育学者であるユーリア・エンゲストロームは、「越境=個人にとってのホームとアウェイの間にある境界を超えること」のことを拡張的学習と提唱している。単に一方通行で超えることだけでなく、行き来することによる学びを越境学習と定義しているのが、本書のスタンスとなる。

 つまり、ホームからアウェイに越境したときだけでなく、アウェイからホームに戻ったときにも大きな学びがあるからだ。大企業からベンチャー企業への越境だけでなく、ベンチャー企業から大企業に戻った後の葛藤の方が大きな学びにつながるということだ。革新、イノベーションを起こす人材を組織内で育成することは難しい。したがって、アクイハイヤーが重要な人材戦略手段であることがわかる。

 本書では、身近な例として、PTA、マンションの理事会、ボランティア活動などから、ハウス食品社員のインドネシアへの留職、パナソニック社員のITベンチャーへの留職例などが取り上げられている。

 教育という分野の越境学習は、哲学の分野では、H.G.ガマダーにより、『地平融合』として語られている。

「他者との差異を理解することは、自己の理解の拡大となり、さらに自己理解の拡大は、他者との意志の疎通をより向上させる。」

「二つのまったく違った伝統的文化価値体系の激突によって惹き起こされる文化的危機。そのダイナミックな緊張感の中で、対立する二つの文化(あるいはその一方)は初めて己を他の枠組の目で批判的に見ることを学ぶ。そこに思いもかけなかったような視座が生れ、新しい知的地平の展望が開け、それによって自己を超え、相手を超え、さらには自己と相手との対立をも超えて、より高い次元に跳出することも可能になる。」

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。