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『マイノリティ支援の葛藤 分断と抑圧の社会的構造を問う』マジョリティ問題としてのマイノリティ問題(環境研究)

 本書は、「なぜある特定の人がマイノリティとされ、差別や排除の対象とされるのか。かれらが直面する困難さとはいかなるものなのか。困難さを克服するために何が出来るのか」これらを個々の問題として捉えるのではなく、「共通した社会の構造として捉えること」が極めて重要だと主張している。

 そのためには、「女性」「子供」「外国人」「障害者」「被差別部落出身者」「性的少数者」などのマイノリティーの問題を横断的に捉える必要があるとして、各専門家が各マイノリティを受け持つ形の構成になっている。

 「農村母子の生存保証(福島県白沢村の事例)」「外国人の日本語支援(秋田県)」「性的マイノリティ支援」「朝鮮学校における学校保健活動(京都)」「外国人支援(新宿区)」「障害児の特別支援教育」「同和地区の隣保事業(京都)」「基地の子供の教育問題(岩国)」など、支援がはじまられたものから終了局面にあるものまでがまとまられている。

 本書で印象に残ったのは、マイノリティの問題を部分の問題として捉えるのではなく、社会全体の問題として捉え、「マジョリティ問題としてのマイノリティ問題」としてしている点だ。

 確かに、パレスチナ問題をパレスチナ人というマイノリティの問題として捉えているうちは解決することはない。イスラエルやヨルダンというレバントのマジョリティ問題として捉える視点がない限り解決しないのである。それは、いずれのマイノリティ問題も、偶然に、自然に、無意識的に、個人的に生じているわけでなく、歴史的に積み上げられた制度や仕組み、習慣によってつくりだされているからだ。つまり、そこから利益を得てきたマジョリティが真摯に対応しない限り、構造化された差別や不平等は永続してしまうことになってしまう。

 売れる本と必要な本は違う。そういう意味で、本書を出版した明石書店には敬意を表したい。それぞれ個別の存在していたマイノリティ問題を、水平横断的にまとめる試みのスタートラインになるならば、本書は価値ある1冊となるだろう。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。