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『グローバルプレイヤーとしての日本』WPU構想の加速を期待したい(環境研究)

 北岡伸一氏の『国連の政治力学』は2007年発刊されたもので、本書は2010年に発刊されたものだ。この2冊を読んだ理由は、2021年に発刊された『西太平洋連合のすすめ』に至る著者の思考プロセスを確認したかったからだ。

 経済力としては、アメリカは一時的に中国に抜かれるが、その後抜き返すというのが筆者の考えだ。第一の理由は、アメリカと中国はほぼ同じ広さだが、耕作可能、住居可能な平地面積は中国が15%に対し、アメリカは80%。中国の食糧生産は2000年から減少に転じ、2004年には食糧輸入国となり、2008年からは輸出を抑制している。しかも、何千年も耕作を続け、土地が荒れている。第2の理由は、中国の少子高齢化で、2030年から人口が減りはじめる。人口減少がはじまる前から、経済の原則がはじまる。しかしアメリカの人口は、マイノリティーの出生率が多いことから、人口はまだ増え続ける。第3の理由は、アクセス・ディナイアル・ゾーンという中国の付近ではアメリカの接近を許さぬ強さがあるが、それを超えて、アメリカを凌ぐ力は持てない。第4の理由は、経済でも科学でも本当にオリジナルなものを発見するに至っていない。現在の中国の力は物量と模倣だ。大学の力が違う。第5の理由は、世界システムを作るソフトパワーだ。第6の理由は、アメリカの自己変革能力。アメリカの欠点は、第5の長所を過信し、イラク、アフガニスタンで相手を作り変えることができると考えたことだ。なぜなら、日本とドイツの成功体験があるからだ。
 そして、中国やロシアのような異質な大国をパートナーとして受け入れることがアメリカを世界のリーダーとして存続させるためには不可欠であろう、と。

 本書の段階では、WPU構想(西太平洋連合構想)は語られていないが、鳩山由紀夫首相(当時)の東アジア共同体構想、マレーシアのマハテール首相の東アジア経済グループ構想などの枠組みの参加国についての考察があるので、この段階でWPU構想はあったのだろう。
 さらに面白いのは、ロシアについての考察が、モダン国家にも関わらず、力によって国益を守ることをためらわない国で、ロシアが復活するときは必ずや軍事大国として復活するだろう、としてNATOの東方拡大とMD配備を強く反対している。つまり、伝統的に軍事的なものに敏感に反応するロシアを刺激させない
方が賢明だというスタンスだ。

 しかし、北岡伸一氏のこれらの考察は、ウクライナ危機を経て、中国とロシアのペアシステムが軸になる世界構造を前提として構想されていない。これらの環境変化でWPU構想が加速する可能性もあり、今後の展開は期待したい。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。