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『自分を超える心とからだの使い方 ゾーンとモチベーションの脳科学』脳の「Postdiction機能」のことは知っていたが、「自由意志」と絡めて考えたことがなかったため、目から鱗が落ちた思いがした(環境研究)

 長い間、私が疑問に感じていた「人間に自由意志があるのか」という問題に対して、この本は大きなサジェッションを与えてくれた。

 スポーツ選手の「ゾーンに入る」という現象を脳科学的に分析するプロセスがまとめられている。まずは、スポーツ選手の「ゾーン」とか「フロー」という世界は、宗教的な行為としてのインドネシアの伝統舞踊ケチャ、スペインの舞踊など、ひとりで踊っている人間がトランス状態に入り、自分自身を失っていく感覚に似ているとしている。イスラームのスーフィズムが修行によって、「我」を「それ」にペルソナ展開することや、座禅により、自己を忘れることとも似ている。この状態を英語では「Peak Experience」という。また、脳がトランス状態に入ったときのフル活動状態と、座禅のような何もしていないディフォルト状態のときの活動パターンが似ているという。座禅のような「静」としてのディフォルト状態を、「マインドワンダリング」と呼び、「ゾーン」「フロー」という超集中状態と似ているというのは非常に面白い。つまり、何らかの訓練で、超集中状態に自由自在にトランスできる可能性があるのだ。

 著者は、潜在認知の研究を進めていくと、「自由」がどんどん蒸発してしまうという。コンビニでチョコレートを選んだとしても自分の自由意志で選んだのか、前の日の広告からなのか、広告だとしたら自由意志で選んだと言えるのか、という疑問がわいてくる。しかし、社会学者の大澤真幸さんによると、「自由」は常に誰かに与えられるものだと。封建時代なら王様に与えらるもの。近代なら政治権力から与えられるものだとしている。

 神経科学者のベンジャミン・リベットの実験によって、自発的な行為でも1秒ほど前に運動皮質の電気活動の緩やかな上昇があるということが分かってきた。これは、自由意志を決めているのは神経活動であることを意味する。つまり、脳の神経活動そのものが、自由意志をPrediction(予測)して対応しているのだ。一方、Predictionの反意語でPostdictionという後付再構築の考えがある。これは、脳がアクティブに「自由だ」「強制された」と後付再構築して、自分の自由意志で行ったと捉えかえしているのだ。つまり、Postdictionによって、人間は自由の感覚がでてくるのだろう。脳の「Postdiction機能」のことは知っていたが、「自由意志」と絡めて考えたことがなかったため、目から鱗が落ちた思いがした。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。