見出し画像

『フランクルに学ぶ』 遠藤周作の「死海のほとり」のラストシーンを思い出した(人間学)

 著者である斎藤敬一氏の『ブーバーに学ぶ』が非常に分かりやすかったので、本書も読んでみた。フランクルの『夜と霧』はNHKの『100 de 名著』で観たくらいの知識しかないが、ロゴセラピーの発案者で、アドラーに破門されたことは知っていた。

 フランクルの性格を表すと思われる以下の3つのエピソードは印象的だ。

・フランクルは医師なので、緊急の患者対応でランチが食べれなくなってしまったが、帰ったとき、ランチを待たずに待っていた彼女からの言葉は「手術はどうだった?患者さんの具合はどう?」だったという。「ランチ待ってたわよ」でなかったことで結婚を決めたという話。

・強制収容所で囚人の選別で、並べと言われた列の反対側に並んだことでガス室行きを免れたという話。

・フランクルはアメリカへの移民のピザを取るチャンスがあったが、両親を置き去りにできないと、ビザを無効にし、両親と強制収容所に送られる運命を受け入れた。これにはエピソードがあり、あるとき帰宅すると、テーブルに大理石のかけらがあった。そこにはヘブライ文字があり、ナチに攻撃されたシナゴークに落ちていたもの。父親が拾ってきたものなので、ヘブライ語の意味を聞くとモーゼの十戒の「父と母を敬え」とのこと。フランクルには些細な偶然からの意味を読み取ろうとする姿勢があり、シンクロニシティ(意味のある偶然の一致)に従った判断だったのだ。

 強制収容所での出来事も紹介されているが、ある女性の「私をこんな目に合わせた運命に感謝しています」など、ユダヤ人ならではの旧約聖書の「ヨブ記」を思い起こす例がたくさんある。つまり、フランクルのロゴセラピーの根底にはユダヤ教が横たわっていることを感じざるを得ない。

 また、フランクルのロゴセラピーは「生きる意味(ロゴス)」について、以下の3つのカテゴリーにまとめている。

1)創造価値:人は創造的行為を行うことでロゴスを覚醒し、生命エネルギーに満ち溢れる能動的体験。
2)体験価値:愛する人との交流などでロゴスを呼び起こし、生命エネルギーに満ち溢れる受動的体験。
3)態度価値:創造価値も体験価値もない絶望的な状況においても、思いやりあふれる高潔な態度をとることで得られる価値。

 本書で思い出したのは、遠藤周作の「死海のほとり」のラストシーンだ。
 ねずみと呼ばれた修道士が、最終的には同じ受刑者たちからも捨てられ、獄卒からも労働力外の烙印を押され、小便をたらし、涙を流し、収容所の処分場にひかれていくが、最後に自分の一日の食料であるコッパンを他の受刑者に分け与えるシーンだ。このシーンからも、ユダヤ教やキリスト教の違いに関係なく、態度価値には「生きる意味」が与えられるのだろう。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。