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『トヨタのイノベーションと糸川英夫のイノベーション』(まとめ)本質的な3つの違いと異質な組み合わせ!

 トヨタのイノベーションと糸川英夫のイノベーションの比較において、戦前の糸川さんが勤務していた中島飛行機と、長谷川龍雄氏が勤務していた立川飛行機の違いに少し触れておく。

 中島飛行機は小山主任技師を中心とした設計部で空力を引き受けていたのは糸川さんだ。自らが設計を手がけた飛行機は九七式戦闘機、一式戦闘機「隼」、重戦闘機「鍾馗」、九七式艦上攻撃機だ。隼は第2次世界大戦の開戦というタイミングで量産に入ったので約5,700機と陸軍機でもっとも多く生産された。そのうち2,949機は立川飛行機が生産していた。(中島飛行機株式会社からの転換生産である一式戦闘機二型・三型「隼」を製作、製作累計2,494 機

 立川飛行機は軍用機メーカーとしては中堅で、陸軍の練習機として赤とんぼ(九五式一型練習機)などを開発・生産していた。大手である中島飛行機が開発した一式戦闘機「隼」の大規模な移管生産を行っていた。その後、独自設計の高高度戦闘機(B29のインターセプター)としてキ94を設計したのが長谷川龍雄氏だ。しかし、米軍による爆撃が激化する中で試作機の製造は進まず、キ94は量産することなく終戦となった。

 当時の立川飛行機を現在のトヨタグループで考えると、車両の設計をするトヨタから委託されて生産のみを行うTier1企業という位置づけになる。つまり、会社の体質として立川飛行機は生産が強かったとも言えるのだ。 

(5−1)長谷川龍雄と糸川英夫の人生変容
(5−2)トヨタのイノベーションの肝は設計VEを使った原価企画
(5−3)原価企画と設計VE
(5-4)原価企画(設計VE)とシステム合成の比較
(5−5)固有技術の限界
(5−6)パーマネント組織とアドホックチーム

 これまでの考察を整理すると、トヨタのイノベーションと糸川英夫のイノベーションには次の本質的な3つの違いがあることがわかる。

  • 【既知対象/未知対象】機能展開ができるものに対するトヨタのイノベーション/機能展開できないものに対し、現状分析から入る糸川英夫のイノベーション

  • 【パーマネント組織/アドホック組織】量産を前提としたパーマネント組織で実践するトヨタのイノベーション/パーマネントな縦割り組織にプラスしたアドホックチームで実践する糸川英夫のイノベーション

  • 【固有技術/ポータブルスキル】自動車に特化した固有技術(コア・コンピタンス)であるトヨタのイノベーション/いろいろ応用可能なポータブルスキルである糸川英夫のイノベーション

 これらのことから、トヨタのイノベーションと糸川英夫のイノベーションは対立するものではなく、組み合わせるものと言えるだろう。

 シーズン5の最後に、組織工学研究会時代のことを紹介しておきたい。私が組織工学研究会で糸川さんと出会ったのは27歳のときだ。その頃、組織工学研究会は東京、大阪、名古屋とあって、私は名古屋の会員として入会した。名古屋の組織工学研究会では、1985年に文庫化された『驚異の時間活用術』の最後のページにある「本書に寄せて」を書いた故・武田源吾さんが一人で事務局を行っていた。

 もともと名古屋には組織工学研究会はなかったが、この武田さんが六本木の糸川さんのオフィスに何度も訪ね、懇願してできたものだ。「名古屋では創造性組織工学の会員は集まらないだろう。豊田市に来て教えてくれと言われて終わりだ」と、糸川さんに断られていたのだ。東大ロケットの歴史には富士精密工業(後のプリンス自動車、日産自動車、IHIエアロスペース)が密接に関わっていたことから、トヨタとは接点がなかったのだろう。

 しかし、武田さんは1度断られたぐらいで諦める人ではなく、2回、3回、4回と六本木のオフィスを訪れた。とうとう根負けした糸川さんは、名古屋にも組織工学研究会を作ることを了承した。武田さんは自分から言い出した責任から自らがボランティアで毎月の例会開催のために事務局を行っていた。まずは新規の会員集めからはじめ、当時は電子メールもないので、案内状を作り返信はがきを入れて配布。会場を予約し、当日は机やイスをセットし受付を行う。糸川さんが出版する本を即売する。当時は大きな録画デッキを持ち込んで記録に残し本部に送る、という雑多な仕事を一人でこなしていた。東京や大阪会場は糸川さんの数名の秘書がこれらの仕事をすべて行っていたが、前述の経緯から名古屋は武田さんが10年以上これらの裏方の仕事を行っていたのだ。(当時武田さんは60代後半で会社も経営していた)

 そこで、20代の私は、ボランティアで事務局の仕事をお手伝いしたいと申し出た。糸川さんと身近になり質問なども気楽にできるというメリットもあったからだ。結局、六本木のオフィスを閉鎖した後も私一人で事務局を行うことになってしまったが、事務局員をちょうど10年続けたことになる。

 名古屋の組織工学研究会にはトヨタグループのTire1企業は参加していたが、トヨタ自動車は会員ではなかった。そのためか、トヨタのイノベーションを司るチーフエンジニア(CE)からすると、糸川英夫のイノベーションは異質な遠い存在で、今まで接点がなかったという。このことはトヨタの元CEの方から聞いて最近知ったことだ。

 今回のシーズン5は、私にVEを教えてくれた故・守道柳太郎さん、名古屋に組織工学研究会を作ってくれた故・武田源吾さんに捧げたい。お二人のおかげで「トヨタのイノベーション」と「糸川英夫のイノベーション」の違いを言語化することができました。本当にありがとうございました。

 このシーズン5に、設計VEとシステム合成の具体的な組み合わせ方法を付加し、さらにわかりやすくすることで、自社に最適なHow to Innovate(イノベーションの方法)を選ぶことができるようになることも書き加えておく。

UchuBiz連載より

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