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『トヨタのイノベーションと糸川英夫のイノベーション』(5−5)固有技術の限界

 CE(主査)制度は、恒常的(パーマネント)な組織として、主査室→製品企画室→開発センター、主査がチーフエンジニア(CE)と名称が変わり組織規模が大きくなっている。しかし、部品軸などの機能別の縦割り組織を横串するための役割を担うパーマネントな組織であることは変わりなく、バイブリッド自動車や電気自動車などのマーケットのニードの変化に適応している。

 クラウンの中村健也氏、カローラの長谷川龍雄氏、プリウスの和田明宏氏、bBやカムリの北川尚人氏、86の多田哲哉氏、初代レクサスの鈴木一郎氏(櫻井克夫氏)など、担当車種に関してはCE(主査)が社長といわれている。彼らは経営者としての社長とは違い人事権も命令権も持たず、他部門を説得・調整する権利だけを持つ。そして、なぜそれが必要なのか、なぜそれが成功するのかをひたすら説くことで、売れるクルマを世に送り出してきた。そこにも理由があるのがトヨタらしいが、CE(主査)に命令権を与えない理由は、CE(主査)の提案が妥当なものであれば、必ず相手が説得されるという大前提が根底にあるからだという。すべてのプロセスにそれぞれの縦割り組織(部品軸)の上長がいる中での横断的に動くには、どのような立場の誰に対しても、このような説得する権利が与えられているだけなのだ。

 最近では、トヨタのCE(主査)制度は、AmazonやGoogleなどにベンチマークされ、トヨタ社内で、中村氏のクラウン、長谷川氏のカローラという愛称で呼ばれるのと同じように、Google社内では、マリッサの検索(Yahoo!の元CEO、Googleの元副社長)と呼ばれていたりする。しかし、このようなシステムとして最適化された固有技術には盲点がある。

 それは、仕事はシステム化することで底上げができるという長所が、同時に短所になるということだ。担当車両のCEOになれるような仕組みが創造されたのは、CE(主査)制度がはじまった初期のころ、1950年〜1960年代(主査室、主査4から6人)、1970年〜1980年代(製品企画室、主査10〜20人)だ。その後は、その仕組み(固有技術の範囲、枠組み)に乗っかっていれば売れるクルマが作れてしまう。


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