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『トヨタのイノベーションと糸川英夫のイノベーション』(5−2)トヨタのイノベーションの肝は設計VEを使った原価企画(利益創造)

 (5−1)長谷川龍雄と糸川英夫の人生変容では、トヨタの製品企画の最重要の定式:売価 − 利益 = コスト(原価)を紹介した。トヨタでは商品企画と製品企画は次のように役割が違う。

  • 商品企画:商売、営業面から見た車両についての企画

  • 製品企画:開発、生産面から見た車両についての企画

 商品企画ではターゲット購買層が確実に存在するのか、セリングポイントは何か、販売価格帯、販売目標台数などを検討する。承認されると主査が任命される。現在は主査のことをチーフエンジニア(CE)と呼んでいる。彼らは承認された商品企画の案をベースにマーケティング情報や販売部門の声、競合情報などからCEとしてのイメージ(車両主要諸元、性能、デザインイメージ、セリングポイント、価格帯など)に落とし込む。

 トヨタのイノベーションの大きな特徴は、最重要の定式:売価 − 利益 = コスト(原価)の売価と利益があらかじめ決められていることだ。前述したように販売価格帯は商品企画で決まり、利益は会社全体の利益計画から車種ごとに分担額が示される車両別利益ガイドラインが存在しているのだ。利益をCEが決めるのではなく、ニードに合致した売価で、目的の利益が出せるようにコストを創造するのがCEの役割になる。

 そのための管理技術としてVEを採用している。正確には設計レベルのVEだが、これがわからないとトヨタのイノベーションの肝がわからないので、糸川英夫のイノベーションと比較できない。

 トヨタの主査の大きな役割である原価企画(≒製品企画)において、VE(価値工学:Value Engineering)は大きな役割を果たしている。また、VEはインフレなどの経済環境の変化を乗り切るために役立つ。そこでここでは、トヨタの主査制度を理解する前提条件としてのVEについて解説しておこう。VEといわれても何のことかわからないという読者も多いと思うが、割り算の算数のようなものなので、しばらくおつき合いいただきたい。


 20代のころ、名古屋にある河合塾という学習塾のIT化の仕事にいくつか携わったことがある。そのときのIT部門の発注担当者は、石川島播磨(現在のIHI)ご出身のVEの達人である故・守道柳太郎さんという人だった。名古屋の千種で打ち合わせが終わると、中央線の隣駅である大曽根に移動し、屋台で一杯やるのが恒例行事で、その屋台は、近くの三菱電機名古屋製作所の人たちの憩いの場だ。ここが私がVEを学んだ教室だ。

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