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『旅立つ息子へ』ウリの演技が素晴らしい(イスラエル)

 父親と知的障害の息子の関係を描いたイスラエル映画『靴ひも』が2020年の映画。父親と自閉症スペクトラムの息子との関係を描いたこの映画は2021年の映画。『靴ひも』の息子ガティと、この映画の息子ウリの両方とも、その演技があまりにも自然で素晴らしいのである。その演技を観るだけでも価値がある映画だ。

 『靴ひも』のレビューでも書いたが、イスラエルにあるガリラヤ湖にはティラピアという魚がいる。ピーターフィッシュとも呼ばれているが、クロスズメダイの一種で淡水の鯛だ。この魚は、メスが産んだ卵から孵化した子供を、オスの口の中で育てるマウスブリーダー(口内保育)という習性がある。しかし、稚魚がある程度成長すると、オスは稚魚が再び口の中に入ってこないように湖底の小石を口に含むという。マタイの福音書に、ペテロがガリラヤ湖で釣りをしていると、口に銀貨をくわえた魚が釣れたという記述があるが、おそらくティラピアの習性として、小石の代わりに銀貨を加えたののだろう。いずれにしても、口に入ることができなくなった稚魚は、自立せざるを得なくなり、大人になっていく。
 ちなみに、ヘブライ語ではこの魚をアムヌンと呼んでいる。アムヌンとは「母なる魚」を意味するが、子離れできない母親へのユダヤ的なジョークなのだろうか。

 『靴ひも』では父親の死から息子の自立がはじまるが、この映画ではウリ自身から自発的に自立がはじまる。そのときの父親の表情は絶妙だ。イスラエルは男女ともに徴兵制があるが、危険な任務につく息子を持つ親の気持ちというニードが深いためか、親と息子を描く映画がいくつかある。
 ベルシェバ、エイラット、地中海などの懐かしい風景が、私にとっては心地よい映像だ。

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