不謹慎

 

「この非常時に何を笑っている！」

 

２０１１年３月１１日

日本中から笑顔が消えた。

 

スーパーマーケットから米が消えた。

 

乾電池も。

 

トイレットペーパーも。

 

津波で流されたのは、
自分の身内じゃなくて、
ホッと胸をなで下ろしただけでは、
気がすまない。

 

テレビに映される原子力発電所。
事態は切迫する。

 

募金箱を盗んだ高校生がネットでやり玉に挙がる。
ストレスを吐き出すような書き込み。

 

いらだち。

 

どこにもぶつけられない、いらだち。

 

 

テレビから、バラエティ番組が消えた。
こんなときに不謹慎。

 

恋人は、キスをすることをやめた。
こんなときに不謹慎。

 

それでも、増えるきずな婚。

 

不謹慎。

 

花見の気分でもない。
それでも、桜は咲き誇る。
不謹慎。

 

友人の胃袋にガン細胞が発見された。
一体、何が不謹慎だって言うのさ。

 

生きていることが？

 

ふざけるな。

 

世界は不謹慎で回っているのさ。

 

 

２０１１年１２月。
友人は人知れず死んだ。

 

名もなき死。
名のある死。
どれほどの差もない。

 

テレビはすっかり笑いを取り戻した。