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寒い朝の風景

南の島だって冬はやはりそれなりに寒いものだ。

子供時代、朝なんかは寒い寒いと言いながら起きてきて居間に敷いてあるカーペットの上で丸くなっては、やれ「早く着替えなさい」やれ「遅刻するぞ」と母に叱られた。当時の我が家は”とても通気性の良い家”だったため、廊下も自分の部屋もどこもかしこも寒い。顔を洗ったり、制服に着替えたりするためにいちいち居間を出るのが苦痛で仕方がなかった。
そんな南の島の冬の朝、私も妹も寒い寒いとグズグズしているのに母はなぜあんなに寒い台所に立っていられるのだろうかと私は常々不思議に思っていた。

あれから10数年経って、今では私が「寒い寒い」と嘆く子供達の尻を叩いている。「早く着替えて!」「ぼーっとテレビ見てないの!」とやかましく声をかけながら朝食の準備をする。あの頃の母の姿をなぞるように私はキッチンに立っていた。
いざ母になって思うのは、朝起きてから子供達を学校へ送り出すまでノンストップで動いているのだから、起きてなおうだうだと床に転がっている子供達に比べれば寒くはないのだろう、ということ。
当時の”通気性の良い家”に比べれば今住んでいる我が家は”気密性に優れた家”なのでどちらが寒いかとは比べられないが。

ただもう子供の頃の気持ちなんて忘れてしまった私は、ストーブの前で団子になって動かない我が子たちを見ると、母が寒さに強いのではなく実は子供が寒さに弱いのではないか?と思ってしまうのだった。

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