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豊かな土壌動物群集をもつ畑地にそなわる機能(3)


土壌生物が豊かな畑にそなわる機能

3)資源の有効利用-窒素を例に-

窒素は土壌中で不足しやすい養分であり、その供給は作物生産にとってきわめて重要です。しかし、多すぎても、根の発達が抑制され、軟弱過繁茂(作物体は大きくなるがひ弱な体質になること)になり、作物生産にとって必ずしも良くありません。

土壌に加えられる窒素の主な供給源は、動植物および微生物の遺体中にある有機窒素化合物です。このほか雨水とともに土壌に入る窒素があり、また肥料として加えられるアンモニア態窒素、硝酸態窒素、尿素、石灰窒素などがあります(堆肥や有機質肥料は有機窒素化合物)。

長野県松本市の畑土壌(黒ボク土)には乾物あたり約0.5%の窒素が含まれていました。これを10aあたりの作土に換算すると、約500kgの窒素があることになります。一般に、畑に施用される窒素は年間10aあたり10~20kgですから、土壌中には施肥窒素に比べて多くの窒素が含まれていることになります。しかし、このほとんどが有機窒素化合物であり、そのままでは作物はほとんど利用できせん。有機窒素化合物には、無機化しやすい窒素化合物から無機化するのに50年以上もかかる難分解性の化合物までさまざまな形態があります。

豊かな生物群集をもつ畑地に有機物が施用された場合、有機物は土壌動物や微生物の餌として利用され、生物体を構成するとともに、糞や遺体というさまざまな有機窒素化合物として土壌に還元されます。

有機窒素化合物は他の土壌動物や微生物の餌として利用され、さらに別の有機窒素化合物となる過程を通じて、窒素が濃縮されます。たとえば、植物体が乾物あたり2%前後の窒素を含むのに対して、細菌は同12%前後、ミミズなどの土壌動物の体は同10%前後の窒素で構成されています。すなわち、土壌動物や微生物そのものが窒素などの養分の貯蔵庫になっているのです。
したがって、豊かな生物群集による複雑な食物網をもつ畑地では、畑地内部の循環機能が発達し外部への養分の溶出も少なくなるため、環境の保全にも寄与しているといえます。
このように、土壌動物や微生物が豊かな畑の土壌では、農業生産にとって重要な機能が発揮されるのです。

他の機能は、1)有機物の分解機能2)生物による密度調節機能をご覧ください。

引用参考文献

藤川徳子(1979)『自然農法研究シリーズ第3集 土壌生物を考える』, 環境科学総合研究所.
藤田正雄 (2002) 土壌動物群集の多様性と害虫の発生~エダマメ播種時のタネバエによる被害との関係~. 有機農業研究年報, 2: 177-185.
藤田正雄 (2004) ミミズの目線で農業、地球環境を考えよう, 自然農法誌, 49: 37-41.
藤田正雄(2004) 自然農法と土づくり~田畑の生命の密度を高めよう~.自然農法,54: 46-53.
中村好男(1998)『ミミズと土と有機農業』, 創森社.



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