見出し画像

うつ病、おめでとう

「20歳になってからお父さんと飲んだ日本酒が、1番印象に残ってるしあわせな飲みものの記憶です!」

っていうのを最初は書こうとしてた。

私は早生まれだから、同級生がどんどんお酒を解禁していくのが羨ましくて仕方なかった。

コンビニでお酒を買っている友達の姿を見ると「すっげえ…」って思ってた。

今までの人生で1番3月生まれの辛さを痛感した気がした。

だから、自分の20歳の誕生日が近づいてくると、小さな子供並みに毎日カウントダウンしていた。

「あと3回寝れば誕生日…酒が飲める…」

なんでそんなにお酒に執着してたか分からないんだけど、とりあえずその時の私の憧れはお酒だった。

そしてようやく迎えた20歳。

お父さんと一緒にお酒が飲めることが嬉しくて仕方なかった。

だけど、

20歳になってすぐ、うつ病診断をされた

はたちの誕生日を迎えた約3ヶ月後。

私は心療内科に居た。

そして、医師に言われた。

「ストレスチェックの結果、重度のうつ病ですね。死にたいと思うことはないですか?」

驚きはしなかった。

むしろ、やっぱそうだよねー。という納得の気持ちでいっぱいだった。

サークルで精神的疲労を感じまくり、大学の授業もつまらないことばかり。

おまけに就活をしなければいけない時期になって、いやでも自分の悪い点に向き合わなければいけなくなった。

そりゃあ精神崩すに決まってるわ。

なので別に、うつ病に対して嫌悪感はなかった。

嫌悪感はね。

なんならサークルで私を苦しめたやつに診断書突きつけて、「診療代払え」って言ってやろうかと思った。

これはさすがにやな奴すぎるので、ここだけの話で。

だけど、他の感情は芽生えた。

お父さんに対する、承認欲。

承認欲と言っていいのか分からないんだけど、ボキャブラリーが著しく私はないのでそういうことにしておく。

「どうだ、私はうつ病になるまで頑張ったぞ」

こう父親に言いたくなった。

エリート家系に生まれた、エリートじゃない私

私の家は自分で言うのもなんだけど、高学歴な家系だった。

父親は聞いたら誰もがすげえーー!!!って言うような大学を卒業している。

それゆえに、認められるまでのハードルがとんでもなく高かった。

今思えば異常なんだけど、テストで80点をとっても褒められなかった。

90点以上が普通。80点じゃ成績が「4」になっちゃうから。

だから、80点台のテストは恐る恐る怯えながら見せていた。

90点以上が取れなさすぎて、塾に無理やり通わされそうになったこともあった。

ほかの分野でも、褒められた記憶が全然ない。

愛情がなかったわけじゃないんだろうけど、世間の厳しさを知ってるからこそ認められることは難しかった。

偏見も著しくて、「タバコを吸ってる人は悪い人」「ピアスを開けている人は怖い人」と散々仕込まれてきた。

私は高校生になると、うちの家の常識はおかしいんじゃないか?と疑問を持ち始めるようになった。

テストの点が70点台でも、先生に褒められた。

60点くらいとっても、普通に生きていけた。

中学生の時は60点なんてとったらこの世の終わりだと思ってたのに。

あれ?テストの点って、重要じゃない?

あともう一つ、偏見に対してもおかしいと思うようになった。

私の高校は校則がなかったので、ピアスを開けている人はたくさんいた。もちろん未成年だからタバコを吸っている人はいなかったけれど。

ピアスを開けていても、みんな優しかった。怖い人なんて1人もいなかった。

もしかして、人を判断する基準はピアスじゃないのか?

そう考えて、何回も父親に「おかしい」と反抗しまくった。

それでも、テストの点も、偏見も親は認めてくれなかった。

うつ病診断を聞いた時のお父さんは

うつ病はよく「こころの風邪」と言われる。

こころが頑張りすぎたから風邪をひいちゃったんだって。

そう、頑張りすぎたんだよ。

私は、頑張ったの。

その結果が形になったんだ。

そう思って病院を出た。

家に帰ろうとすると、ちょうどお父さんと遭遇した。

なんでも、今から1人でご飯を外に食べにいくそうなのだ。

「あ、そうなの。私も一緒に行きたい。」

「そう?良いけど。」

こんな会話をした後、わたしは意を決して伝えた。

「あのね、私、うつ病だった。診断されたの。」

なんて言われるかな。

ショックを受けられるだろうか。

それとも、「ふーん」で済まされるだろうか。

私の何かをわかってくれる人なのだろうか。

そう思っていたけど。

「そうか。頑張っていたんだな」

うつ病になったことで、初めて頑張りを認めてもらえた。

私、お父さんから見ても頑張ってたらしいよ。


うつ病、おめでとう

画像1

なんでも、私がここ最近おかしいことにお父さんは気づいていたそうだ。

もっと早くうつ病の兆候に気づけばよかったなあ、なんて言っていた。

なんだ、なんだよ。

知ってたのかよ。

私が頑張ってること、分かってたのかよ。

「とにかく、最近の調子がおかしい原因がわかって良かったんじゃないか?」

良かった、とまで言われた。

良かったんだ。私。

うつ病になれて良かったんだ。

頑張ってきて良かったんだ。

ものすごい何かが楽になった気がした。

そのまま、その足でお父さんと一緒に居酒屋に行った。

お父さんはいつも通り、ビールを頼んだ。

私は20歳をすぎているけど、ジュースを頼んだ。

うつ病の薬のせいで、お酒はあまり飲まないほうがいいのだ。

はあー。飲みたかったな。

せっかく20歳になったのに、またしばらくお預けかあ。

まあ、良いや。

今日は大事な日。私にとって新しい日。

私の頑張りが現れすぎた日。

運ばれてきたビールとジュースをそれぞれ手に取り、2人でこう言った。

「うつ病、おめでとう。」


#ここで飲むしあわせ

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?