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商人のDQ3【28】じいさんのレコンキスタ

「アントニオ!やっちまえ!!」
「アントニオ!やっちまえ!!」

 やたら威勢のいいおじいさんと、即興の演奏に。城塞都市カルカスの住民たちがスーパーハイテンションになって、一斉に声をあげ始めました。

「1、2、サンダー!!」

 ウワサの勇者を真似てか、ライデインでも唱えそうな感じで元気な爺さんが指を天にかざします。勇者アッシュも、有名になりましたね?

「これは、ちょっと…」

 恥ずかしくなったのか、アッシュ少年が顔を赤くしています。変装の一環で青い玉のサークレットは外していましたが、もし付けていたらすぐに勇者だとバレたでしょう。

「あのじいさん、なかなかいい男じゃが…誰かの?」
「あんた、アントニオじいさんを知らないのかい!?」

 アミダおばばが首をかしげると、市場のパン屋さんが驚いてこちらを二度見します。どうやら、カルカスでは有名人である模様。

「アントニオじいさんは、バルセナの街でサクラダ大聖堂の建設に関わってるのさ。俺たち職人のスーパースターだよ!!」

 でも、これって完全に別人のノリですよね。アントニオ違い。

 騒ぎを聞きつけて、街の衛兵もやってきましたが。

「アントニオじいさんなら、仕方ないな」
「武術大会の優勝経験もあるし。建築家になってからも毎日、身体を鍛えてるっていうからな。ホントにモスマンの連中をのしちまうかも」

 普段は跳ねっ返りなマリカも、場の熱気に当てられたようで。

「なんか、暑苦しくなってきたわね」

 額から汗を流しながら、魔法のローブの胸元をパタパタする始末。ちなみにこの服は、エルフの里で仕入れた新装備のひとつで。「みかわしの服」の回避アップ効果と「まほうの法衣」の防御力と呪文耐性を合わせ持つ上に、男女兼用で魔法使いが装備可能な逸品。上の世界なら最強装備です。

「アントニオじいさんの出してる依頼をどうするか、僕たちだけでは決めかねますし…会談が終わるのを待って、シャルロッテさんに相談しましょう」

 アッシュ少年が半分あきれた様子で、気炎をあげるアントニオじいさんを遠巻きに見ています。
 バルセナの街へ行って、街を包囲しているモスマン帝国の軍を追い払え。もはや戦争です。冒険者というより、傭兵の領分。

※ ※ ※

「こっちまで、聞こえてきまちたよ」
「結局、話し合いは中断だ。あのじいさん、かなり重要人物らしくてな」

 カルカスのお城の、ゲストルーム。もはや宿代の援助ではなく、貴族相手のおもてなしです。一行に割り当てられたロイヤルスイートルームで、街での出来事をマリカとアッシュ少年が話しています。それを聞き終えると今度はシャルロッテの番です。

「領主様の話だと、アントニオおじいちゃんはカルカスの要塞建築に興味があって見物に来た矢先に、バルセナの街が襲われたみたいでち」

 世界遺産カルカソンヌは、現存するヨーロッパの城塞で最大。都市は二重の防壁に囲まれ、全長3000mで53の塔や外堡を含み、2500年の歴史を持つと言えばその凄さが伝わるでしょうか。また、カルカソンヌには地名の由来を説明した女領主の伝説があります。

「おじいちゃんは若い頃武闘家で、めちゃくちゃ強かったらしいでちけど。さすがにモンスターの大軍にひとりで突っ込むのは、むぼ〜でちゅ」

 アントニオじいさんはサクラダ大聖堂の設計者で現場監督でもあり、彼にもしものことがあれば工事に大きな支障が出るでしょう。そして聖堂建設は魔王バラモスに立ち向かう人々の希望なのです。

「それで、領主様からも直々に護衛依頼があってな」
「止めないのね」

 クワンダの話に、マリカが不思議そうに問いを返すと。

「あれだけ元気なじいさんだ、止めても無駄だと分かってるんだろ」
「ふぅ〜む、悩ましいでちね」

 モスマン帝国に備えて領地防衛に専念したいところですが、アントニオじいさんに万が一の事態があってもいけません。
 翌朝、カルカスの女領主が使いを出してアントニオじいさんを城に招き、謁見の間でシャルロッテたちは稀代の建築家と対面します。

「ロマリア男爵で、冒険者のシャルロッテちゃんでち」
「ふん、こんながきんちょが爵位持ちじゃと?」

 じじいと見た目幼女の間に一瞬、緊張が走ります。

「レディ・シャルロッテはエルフとドワーフの血をひいているため、成長が遅く背丈が小柄なのです」

 カルカスの女領主が、微笑みながら両者の間を取り持ちます。客人として招かれている以上は、両者とも彼女に免じて矛を納めますが。内心は火花が散っているのを、その場の全員が感付いていました。

(ドワーフ気質って、ホント面倒よね)

 マリカも、額にシワが寄っています。

「シャルロッテの手腕もあって、ロマリアは街として見違えるほど発展しましたが。いくさに耐えられるような城壁の構築は遅れています」

 そこでカルカスから職人を派遣し、ロマリアの城塞化を支援したいので、稀代の建築家であるアントニオ殿にもぜひお力添えを頂きたい。カルカスの女領主は、そうアントニオじいさんに懇願します。

「わしは一刻も早くバルセナの街に戻って、聖堂の様子を見たいんじゃ」
「それなら、今晩夢渡りで連れてってあげるわ」

 そうでもしないと納得しないだろうと、ベナンダンティのマリカが助け船を出します。

「なんじゃい、その夢渡りというのは」
「私やシャルロッテも大いにお世話になっている、斥候の技術です」

 こうして、バルセナ奪還に躍起となるアントニオじいさんをどうにか説得して。シャルロッテ一行はカルカスの職人とアントニオじいさんを連れ、ロマリアへの帰路を急ぐことにしました。

 元気ですか〜?
 元気が一番、元気があれば何でもできる!!
 じいさんのレコンキスタ〜♪


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