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商人のDQ3【41】オアシスの街イシス

みなが私を誉めたたえる。でも一時の美しさなど何になりましょう。

 一夜明けて。シャルロッテたちは女王を救った恩人として、イシスの宮殿で丁重なもてなしを受けていました。

「あ〜、フムスおいち〜♪」

 シャルロッテは、珍しい中東の料理にご機嫌です。南米のワカモレとトルティーヤのように、ピタパンにつけて頂きます。

 なお、同じフムスでこんな習慣もあります。砂漠の民の、助け合い精神。

「戦争で得たどんな物も、5 分の1 は神とその使徒そして近親、孤児、貧者、そして旅人に属することを知れ」
                 — クルアーン 8 章〔戦利品章〕41 節

 旅人、つまり冒険者にも優しい国イシスです。

俺は女王様の為なら死ねる! ああ、女王様!

我が女王様に恐いものなどありませぬ。
魔王と言えどもその美しさの前にひざまずくでしょう……。

 みんながみんな、こうですから。女王の命を救ったシャルロッテ一行への歓迎っぷりは相当なものでした。

「あなたたちは、アルスラン王に会ったのか」

 モスマンの獅子王からイシスの話を聞いたのが、ピラミッドでの出会いのきっかけと知って。女王クレオパトラ27世は、思いがけない星の巡り合わせに感嘆しました。

「ヒミコの不死軍団は、イシス南西のほこらから旅の扉でジパングへ撤退したようです」
「報告、大儀であった」

 何らかの手段で、岩山を越えたのでしょうか。短時間飛ぶだけなら、実はいろいろあるのでしょう。兵士の報告に女王が労いの言葉をかけます。

「ヒミコしゃんの目的がオーブだった以上、当面の危機は去ったでちね」
「それなら、もう一度ピラミッドの上層階を探索してみんか?建築家として興味があっての」

 後日、アントニオじいさんの提案でシャルロッテたちはピラミッドの2階より上を探索し、魔法の鍵などを入手します。

「あなた方は、今後はどちらへ?」
「アッサラーム経由で、バハラタを目指しまちゅ。くろこしょうで、お船やバルセナの大聖堂建設の費用を稼ぐ目的の旅でちから」

 女王は、砂漠を徒歩で旅するならとラクダの手配をしてくれました。ヨーロッパではまず見ない、珍しい乗用動物です。

「数日はイシスに滞在して、旅の疲れを癒すといい。係の者に案内をさせるから、宮殿のゲストルームや浴場を自由に使ってくれ」

 宴の後は、男女別で大理石の豪華な大浴場へ。シャルロッテとおばばは、女王と一緒に王族専用の薬湯に浸かっています。当然お付きの女官がいますが、女王は彼女らにも人払いを命じました。

「さて、これでようやく気兼ねなく話せるな」
「クレオパトラしゃん、女王しゃまもタイヘンでちね」

 シャルロッテも領主ですが、やはり一国の君主ともなるとケタ違い。常に誰かがそばにいて、着替えも女官がやってくれて、プライバシーは無いに等しい状態です。

「聞きたいのは、わしがなぜヒミコのやり口に詳しいかじゃな」

 宴会では、誰が聞いているか分からない。アミダおばばは目立たないように砂漠の民の衣装で顔以外を覆い、意図的に発言も控えていました。魔王軍に襲われた土地で、素性がバレれば面倒なことにもなるでしょう。

「おぬしは賢い。おそらく、その推理は当たっておるじゃろうよ」
「過去が何であろうと、私を救ってくれた恩人には変わりない。イシスではいつ来ても客人として迎えるよ」

 ネクロマンシーは邪悪な性質故、ほとんどの国で研究を禁じられてます。それを高度に体系的に学び、実践できる場所といえば。どこかの邪教集団か魔王軍以外にあり得ません。
 自分の警告をすぐに理解し、とっさに状況判断できる女王なら、元魔王軍所属だったことなど気付いているはずと。おばばは遠回しに語りました。

「ヒミコしゃんのいも〜とまで出てきちゃって、この先どうやってオーブを取り返せばいいでちか?」
「おぬしらには、ジパングに詳しい協力者もおるじゃろ。手はあるはず」

 シャルロッテが手をポン、と叩きます。浮かんできたのは、エルルの顔。

「さすがは冒険商人、人脈が広いな」

 おばばとシャルロッテの会話に、女王が感心します。

「イシスは国家勇者を擁立するつもりも、植民地を獲得するつもりもない。魔王軍の脅威が迫る今、どうにかして人類諸国が団結する道はないものか」

 クレオパトラの言葉に、リラックスしていたシャルロッテが商人の顔に戻ります。

「シャルロッテちゃんたちが諸国を回って、各国の王を説得して、対魔王軍の同盟を結成するでちよ」

 ついに、とうとう。のちのアリアハン沖海戦につながる連合軍の構想は、こうしてイシスのお風呂で生まれたのでした。

「おお、そっちはどうじゃったか?」
「いい湯じゃったよ。若返りそうなくらいにのぅ」

 浴場から上がってバスローブに着替えると、シャルロッテとおばばは入り口でアントニオじいさんとクワンダに会いました。二人とも十分湯に浸かりマッサージを受けるなどしてリフレッシュしたようです。

「クワンダしゃん。この世界での旅のゴール、ちょっとだけ見えまちた」
「そうか」

 この後、一行はイシスの街で観光を楽しみます。街外れには巨大なスフィンクス像があり、まさに守護神の風格をかもしています。ここへ来る時には女王に怪我はないかと、そちらにばかり気が向いていました。けれども。

「あり? どっかで見覚え、ありまちぇんか?」

 不思議そうな顔をするシャルロッテを見て、クワンダとおばばもスフィンクスを見上げます。そしてすぐに気付きました。

「ヤバいぞ、こいつは…!」
「アミダくじの塔の入り口にいた、メタルドラゴンの系列機じゃと!?」

 顔こそスフィンクスですが、ボディは黄金のメタルドラゴン。住民に危害を加える気配はなく、じっと動きませんが。この機体、今にも動きそうなほど状態が良いです。近くでスフィンクスを見上げていた小さな男の子が、何か元気に歌っています。

「ねえ、一緒に歌おうよ!」

まんまるボタンを知ってるか〜 お日様ボタンを知ってるか〜
小さなボタンで扉が開いて、ミサイル発射!!

「おお、元気じゃな」

 何も知らないアントニオじいさんは、陽気に笑っていますが。正体を知るシャルロッテたちは、背筋が寒くなる想いです。

「もしかして、クレオパトラしゃんが街に魔物を近付けたくなかったのは」
「こいつが起動したら大変だから、だろうな」

 イシスの初代ファラオは、精霊ルビスからオーブの守護を任されたと女王は言っていました。だから、古代アリアハンの遺産がここにも?

 まさに、謎のスフィンクスでした。


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