商人のDQ3【59】特異点の勇者様

 よく来たアッシュよ! ここは勇気を試される神殿じゃ。たとえ一人でも戦う勇気がお前にあるか?

 はじめは、ランシールの洞窟だけで終わるはずの試練でした。なのに道化の横槍が入って、メアルーラで悪夢の彼方に飛ばされた。そう思ってたら、偶然にもオルテガゆかりの地ムオルへ飛ばされて。

 いまは、バラモスがアバター変身した義経との一騎打ち。かつて天狗から教えを受け、怪力無双の剛力僧を従えたと伝わるアンゴルマの征服王。その一撃はまさに弁慶のごとく重い。とんでもない試練もあったものです。

 ルーク・スカイウォーカーもヨーダの修行で、ダース・ベイダーの幻影と戦いましたね。あっちは武器を持ってはならないものでしたが。

「…っ!」

 武者の一太刀を避けきれず、剣で受ければ刃が欠けるほどの衝撃。技でもチカラでも圧倒されました。呪文を唱える余裕すらありません。このまま、追い詰められてしまうのでしょうか。

 けれど、負けるわけにはいかない。

「勇者と言えど、しょせんは剣も呪文も中途半端」

 バラモスの勝ち誇った視線が、アッシュ少年に突き刺さるも。

「勇者の武器は、勇気ですからね」

 父オルテガの兜が、勇者アッシュに勇気を与えてくれます。それにまだ、切り札も残しています。

 魔弾銃のことは、バラモスも知らないようです。相手が剣だけで戦いを挑んできている間は、アッシュ少年も抜くつもりはありませんでしたが。

 ところで、アッシュはさきほどから奇妙な違和感を感じていました。

「仲間がここへ駆けつける前に、悪夢の中で息の根を止めてくれよう」

 そう言う割には、勝敗を決める最後の決定打に踏み込んでこないのです。いや、踏み込めないのが正確なところか。荒い息を整えながら、頭脳派勇者が目の前にいる魔王の心中を推理します。

(バラモスは、僕を恐れている…?)

 自分で「恐怖の大王」を名乗っておきながら、実は勇者の底知れない可能性に危機感を抱いている。それで、こうやって自分から攻めてきた。
 バラモス城でのんきに待っていたら、勇者とその仲間がレベル99になって自分をなぶり殺しに来るかもしれない…!?

 そうでなくても。そもそもアッシュ少年は、バラモスのかけた呪いで冒険に出ることすらできない身でした。けれど、マリカが夢渡りでアリアハンへ訪ねてきてから。少しずつ状況が変わり始めました。

「冒険に出れるくらい、すごい車椅子を作っちゃいなさいよ!」

(僕に最初の勇気をくれたのは、マリカさんでした)

「アッシュと言ったな。勇者とは血筋でも武勇でもなく、まして国王の出した紙切れ一枚で決まるものでもない」

(勇者の武器は、勇気だと。クワンダさんも教えてくれていたのかも)

 さらにここは、夢の世界。イメージのチカラがカタチになる場所。ポポタからオルテガの兜を受け取るまでは、精神だけムオルに飛んでたかもしれませんが。道化が来てバラモスが現れたあたりから、夢の中に引き込まれた。

 ややこしいですが「インセプション」みたいな階層構造かもしれません!

 となれば、この危機を乗り越える方法は。少年の脳裏に閃く答え。

「バラモス、いやアンゴルマ。お前は『僕たち』に勝てない!」

 剣を目の前にかざしたアッシュ少年が、離れた仲間に思念を送ります。

(みんな、僕にチカラを分けてくれ!)

 バラモス本人の目線からすれば、いま戦ってること自体があり得ないイレギュラー。ロマリアに差し向けた刺客も退けられ、アミダおばばの裏切りで魔王軍の内情も知られ、さらには生きていたオルテガと親子で恐るべき脅威となりつつある存在。

(悪夢を見せられているのは、我だとでもいうのか…!)

※ ※ ※

 その頃、シャルロッテたちは。ルビスが開いたドリームゲートから聖竜の背に乗って、バラモスと戦うアッシュのもとへ急いでいましたが。

「おっと、そうはさせませんよ」
「ドリームウェイは、ワタシたちの庭ですからね」

 どこからか現れた道化たちが、いきなり四方八方から襲いかかってきました。道化は複数体、いえ数十体もいたのです…!
 ドリームゲートの内部は、まるでスターウォーズ世界のハイパースペースのような亜空間。オーロラ揺らめく光のトンネルで襲ってきた、異常な敵。

「ポテバルタ! こいつら、いったい何なの?」
「機械のようなものか! 道理で生気を感じないわけだ」

 マリカがシバルタ系の上位呪文を唱え、複数のツタを同時に放って道化たちをまとめて拘束します。芋づる式だから、ポテト+縛るツタ。
 そこへ、戦斧を水平に構えたオルテガが回転突撃、オノむそう。たちまち聖竜の背に降り立った道化人形がバラバラに砕かれて、破片が亜空間の後方へ流れてゆきます。ドラゴンの背の上で、超光速での激しいバトル。

「ガーデナーども! もう正体を隠す気も無くなったか」

 ゾンビキラーを振るい道化人形を砕きつつ、傭兵クワンダが蹴りを入れて別の道化を聖竜から突き落とせば。

「それはアナタもでしょう、大勇者クワンダ」

 皮肉めいた答えを返す道化。寡黙なクワンダが、道化たちを知ってる素振りを見せました。今まではどこか、とらえどころのない正体不明の傭兵でしたが。

「アウロラしゃま! もうバレてもいいでちよね?」

 シャルロッテは、得意の防御特技オーロラヴェールを全開にして。自身と聖竜、乗り手のユッフィー姫を守っています。道化たちも情け容赦なく竜や乗り手を狙って攻撃してきますが、まるでアストロンでも唱えたように全てシャルロッテに弾かれています。これほどとは。
 そのチカラは普段より大幅に増して、広範囲に展開。これほど強力なバリア、シールド、フォースフィールドを張れるなら。シャルロッテは回復呪文をベホイミまでしか使えないと気にしていましたが、もうそれに頼る必要さえ薄れてきます。
 もしかすると、ここがドリームウェイと呼ばれる空間だからでしょうか?

「あなたがたは…異世界から来た勇者様だったのですね」

 ユッフィー姫が、みんなが落ちないよう竜を御する役割に専念しつつも。驚きと好奇心のこもった声をあげました。

「その通りです、ユッフィー姫」
「ドリームゲートを開く方法も、アウロラ殿に教わったのだ」

 科学者ルビスと。もうひとり、いかにも女神らしい柔らかな声が光のトンネルに響きます。その最中にも、マリカとオルテガとクワンダの三人は道化人形たちと戦い続けています。ときどき、シャルロッテのオーロラヴェールに助けられながら。

「オーロラヴェールは、人と人のつながりが生み出す絆のチカラ。命の輝きが凍った不毛の地にさえ、希望を灯す心の光」

 シャルロッテの信仰する女神アウロラの声が響く中、一同の元にアッシュ少年の思念が聞こえてきます。

(みんな、僕にチカラを分けてくれ!)

「さあ、シャルロッテ。みなさんも、勇者アッシュに希望の光を!」
「ここからぁ、出ていくでちよ!!」

 次の瞬間、聖竜の全身が極光の輝きに包まれたかと思うと。取り付いてた道化人形たちが激流に押し流されたかのように、一斉に砕けて吹き飛ばされていきました。

 ようやく、光のトンネルの出口が見えてきます!


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