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商人のDQ3【44】バハラタ炎上

 バハラタの街が燃えています。ポルトガの船からの砲撃で、家は焼け寺院は破壊されました。象の神様ガネーシャの像も半壊しています。なぜこんなことになったのでしょうか。

 提督にして伯爵、そして疑い深い男バスコダ。彼は砂漠の民の慣習を無視して港湾使用料を払わず、軍事力を背景に武力で自国の都合を押し通す道を選んだのです。植民地主義の始まり。

 彼の用心深さが、ヨーロッパ人で初めて喜望峰ルートでのインド到達を支えたのかもしれませんが。

まあコワイ! 東って野蛮人しかいないのでしょ。

 いいえ、野蛮人はあなたのほうです。バスコダは現地の商習慣を守らず、異教徒である自分が迫害されることを極度に恐れて、略奪で物資を調達したり人質を取ったりとやりたい放題。その行いは完全に海賊でした。

 インコ帝国を滅ぼし、サマンオサを建国したスパニアの勇者ピサロも全く同様の所業に及んでいます。大航海時代は、征服される側にとっては暗黒の時代でもありました。

 郷に入っては郷に従え。ローマではローマ人のようにせよ。彼がもし現地の慣習を尊重する選択をしていたなら、その後の歴史は変わったでしょう。まさにintolerance(不寛容)。

「はなせ〜! この、あんぽんたん!!」

 シャルロッテが、ポルトガの兵士に連行されています。他の仲間たちはどうしたのでしょう。

「きさまら 異教徒だな!」

「くそっ、俺としたことが!」

 船の上で、クワンダが悔しそうにつぶやきます。一行はモスマン大臣の話を聞いた上で、注意深くバハラタの港まで来ました。この世界では、原作と違ってガンジスのほとりではなく、南インドの港町です。

 不穏なうわさとは裏腹に、何事もなく入港できたかと思った途端。突然、港に砲弾の雨が飛来します。

「またこのパターンでちか!?」

 シャルロッテの防御特技オーロラヴェールで船の沈没は避けられましたが直後に小舟で上陸したポルトガ兵たちが街の人をさらい、物資を略奪する姿にシャルロッテは激怒。いつもと違う様子で、まるで稲妻の如き勢いでひとりで飛び出してしまいました。

「ああっ、わしの腕輪がないぞい!」
「若いのう。もう少し自分の立場をわきまえてもらいたいものじゃが」

 イシス女王から賜った星降る腕輪を、いつの間にか取られていたのに気付くアントニオじいさんと、猪突猛進なシャルロッテに驚くおばば。

「何か、様子がおかしくなかったかの?」
「シャルロッテ…故郷が襲われた日のトラウマがよぎったか」

 クワンダは、何かを知ってるようです。

 このまま上陸すれば、一行は全員ポルトガ兵に捕まってしまいます。仕方なく、3人は船の上からシャルロッテの様子を確かめます。

「グプタぁ〜!」
「タニア!」

 ポルトガ兵に連行される街娘。それを連れ戻そうと、恋人らしき青年が後を追いかけますが。気付いた兵士が、青年に火縄銃を向け発砲します。万事休す。

「何ッ!」
「こらぁ〜! 人の恋路を邪魔するヤツは、お馬さんキックでち!!」

 星降る腕輪で加速したシャルロッテがとっさに割り込み、銃弾に手をかざすと。揺らめく光のカーテンが現れて、銃弾を全て弾いてしまいました。

「このガキ、妖術使いだぞ!」
「僧侶の呪文でもない…さては異教徒か!」

 フリウリ村の「夜の合戦」では、畑を荒らす魔女のベギラマを弾き。ついさっきは大砲の弾さえ弾いた、アウロラ神官の特技。ですが、相手は人間。シャルロッテに一瞬の迷いが生まれた隙に、背後から殴られ気絶させられてしまいました。

「おのれ、卑劣なポルトガ兵め!」

 その様子を見ていたアントニオじいさんが怒号を発しますが、クワンダは黙って船を離岸させます。

「何をする、おぬしの護衛対象じゃろうが!」
「ポルトガ兵が略奪を終えて退くまで、一時退避するぞ」

 冷酷なようですが、合理的な判断。今ここで強大なポルトガ海軍を敵に回すのは得策でなく、人質が目的なら捕虜に危害は加えられまい。クワンダはそこまで考えて、奪還の機会をうかがうことにしたのです。

※ ※ ※

「シャルロッテがロマリア領主だと分からなくて、助かったかもしれん」

 バハラタ沖の船上で、アミダおばばが水晶玉に手をかざしながら状況を分析しています。

「隣国のロマリアが異教徒の支配下にあると知れれば、ポルトガやスパニアの連中がまたレコンキスタだと騒いで、戦争を仕掛けて来るかもしれんな」

 諸国を渡り歩く傭兵クワンダもまた、国際情勢に詳しい身です。

 これまでロマリアは、ヨーロッパ教会に属するカルカスと良好な関係にあり、従ってそこの領主もヨーロッパ人の神を信じているのだろうと。周辺の諸国から思われてきました。ロマリアでは信じる神を問わず、商人を幅広く受け入れてきたため。トラブルもなく円満に発展してきましたが。

 財政難にあえぎ、活路を植民地獲得に見出した西欧諸国がロマリアの成功を妬めば。今度は魔王軍でなく、人間の軍がロマリアを攻めるかもしれません。カルカスは両者の間で板挟みになるでしょう。

 おばばの水晶玉でポルトガ兵が去ったのを見て、三人は港に上陸。あたりはひどいありさまです。

私は胡椒を買いに来た。
だが娘をさらわれたとかで商売をしてくれない。困ったことだ。
青年「ああ、タニア……。僕の愛しき人……。

胡椒屋の老人「旅の人、聞いてくだされっ。わしの可愛い孫娘タニアが悪党どもにさらわれてしまったのじゃ。そこにおる若者がタニアの恋人グプタ。わしは二人を結婚させようと思ったのに……。あんたらは強そうじゃな。どうかタニアをたすけ

グプタ「僕が行きます! 見ず知らずの旅人に頼むなんて……。待ってて下さい。きっとタニアを助け出して来ます!

老人「グプタ!
おお! この上グプタまで捕まったらわしは、わしは……。

「さっき、グプタをかばった娘シャルロッテは、わしらの旅仲間じゃよ」

 アントニオじいさんの言葉に、老人は激しく動揺します。命の恩人を見ず知らずの旅人呼ばわりするなんて。

「これは、とんだ失礼を。ですが今は、商売など頭が回らんですじゃ」
「シャルロッテも、わしらの大事な孫みたいなもの。誰か、連れ去られた先に心当たりは無いかのう?」

 おばばが、周囲の人に呼びかけると。

近くの洞窟には人さらい達が住んでいるそうだ。

「囚われの姫を助けるのは、勇者の役目じゃな」

 アントニオじいさんが、一行を元気付けます。ドラクエって大抵どこかで牢屋に入れられたり、奴隷にされたりしますよね。ましてやシャルロッテは商人。原作の商人の街イベントとは場所が違いますが、牢屋に入れられるのはやはり宿命なのでしょうか?

 我らが美少女、シャルロッテちゃんの運命やいかに。




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