見出し画像

AMBIENT KYOTO 2023

2023年10月27日付朝日新聞朝刊に『来年3月 舞台「TIME」 あえて時間を否定 坂本龍一 最後の挑戦』という記事が掲載された。

音楽家の坂本龍一が生前最後に取り組んだ舞台「TIME」が、2024年3月から日本で初演される。音楽、映像、身体、言葉などが、「時」を深く探る。
「TIME」は、坂本と、アーティストの高谷史郎がコンセプトを練り込んで共作した。21年にオランダ・アムステルダムで開かれた舞台芸術の祭典で初演された。
舞台では、坂本が書き下ろした楽曲を含むサウンドと、パフォーマンス、インスタレーション、ビジュアルアート、光、水などが融合する。

2023年10月27日付朝日新聞朝刊記事(抜粋)

当日朝、記事を読み終えた私は、会社ではなく東京駅に向かい、新幹線に乗った。
京都で降り、京都駅の地下通路を通り地上に上がると東本願寺が見えるが、北上せず七条通りを西へ少し進むと、京都中央信用金庫 旧厚生センターがあり、その建物に大きく掲げられていたのが……


AMBIENT KYOTO 2023」という展覧会が、この建物と、東本願寺の前を通って烏丸通をずっと北上したところにある、京都新聞ビルの2カ所で開催されている(2023年12月24日まで)。

アンビエントをテーマにした 視聴覚芸術の展覧会
世界的文化都市 京都で展開する
アンビエント・ミュージックの祭典"AMBIENT KYOTO"
2回目の開催となる今年は数々の歴史ある会場を舞台に加え、
複数アーティストによるインスタレーション作品展示やライブを展開

公式サイトより


入口に立つと、若い女性スタッフの方がドアを開けて招き入れてくれる。
鑑賞料3,300円を支払い、「京都銀行の方へは、今日を含めて3日以内に行ってください」と説明を受け、奥の部屋へ入る。

Corneliusコーネリアス QUANTUM GOHSTS
最新作『夢中夢-Dream In Dream-』収録「火花」のカップリング曲。
本館で最も大きな展示室で行われる、360度に配置された20台のスピーカーから鳴らされる立体音響と、高田政義による照明がシンクロする作品。

部屋には四角形のステージが置かれ、照明はそこに向けられている。しかし、ステージには誰もいない。
私が入った時には観覧者たちは、ステージの周囲に置かれたベンチに腰掛けていたが、後から来た女性がステージに上がったのを見て、ステージに近寄ってきた。私もステージに上がる。
上述したように照明はステージに向けられているため、観覧者たちは「ステージ上でライトを浴びる」という今まで体験したことがない(であろう)ことに戸惑い、不思議そうに上を見上げて呆然と立ち尽くしている。
それはさながら、『未知との遭遇』で、光るUFOを呆然と眺める人々にシンクロする。

2階の展示は、同じくCorneliusの「TOO PURE」。

最新作『夢中夢-Dream In Dream-』収録曲。
立体音響と、groovisions政策の映像作品が立体スクリーンに映し出される、7.1chの音と映像の作品。

草原のようなところで後方から前方に向かって鳥たちが飛び去ったりと、ファンタジックな映像。

3階には2つの展示があり、1つはCorneliusの「霧中夢」。

最新作『夢中夢-Dream In Dream-』収録曲。
立体音響と、高田政義による照明、そして特殊演出による霧が相互作用する霧の中の夢。

部屋に入ると、辺りは霧。視界は十数センチくらいしかない。まるで、映画でみたような、奥深い森の中を歩いている気分になる。
おっかなびっくり歩いていると、不意に眼前に人があらわれて驚く。
照明が様々色を変える度、そこにいる人の輪郭がぼやけたり、はっきりしたりして、それが本当に人なのかどうか、また逆に、私はそれらの人からどう見えているのか、とても不思議な感覚に陥る。
……と、不意に音と共に照明が激しく明滅し始める。
まるでタイムトラベル或いはどこか別の場所へワープしているような、恐怖にもワクワクにもつながる、不思議な感覚に陥る(これは是非とも体験するべきだ)。
照明はやがて明滅をやめ、何事もなかったかのように様々色を変えるだけになる。
しかし、私には別の場所或いは時間に飛ばされた感覚が残る。
部屋を出て、そこが同じ建物だということに安心する。

3階のもう一つの展示は、Buffalo Daughter(以下、BDと略す)rの「ET(Densha)」と「Everything Valley」(いずれも、アルバム『We Are The Times』収録曲)をマルチスピーカー向けにリミックスされたバージョンに、映像(「ET」黒川良一、「EveryThen Valley」住吉清隆)が付加された作品。
『We Are The Times』はとても好きなアルバムで、その曲たちをこうした形で体感できることに感激する。
そうやって音と映像を体感しながら、「そういえば、BDのベース/キーボードの大野由美子は(去年と今年のサマソニで)Corneliusのバックでベースを弾いてたなぁ」なんてことを、ぼんやり考える。

BDの2曲に続いて、山本精一の「Silhouette」が流される。

本展のために書き下ろされたアンビエントの新曲。
映像は、リキッド・ライティングの手法を用いたヴィジュアル・アーティスト 仙石彬人と、山本精一による共同制作作品。

確かに、流れる水面に極端にズームインしたような(だから、当然ボケたようになっている)映像で、何だか不思議な感覚に陥る。

京都中央信用金庫 旧厚生センターを出て、烏丸通を北上し、京都新聞ビルに向かう。
入口で、女性スタッフの方から「元々工場だったところなので、小さな隙間や窪みがたくさんあるので、物を落とさないように」と注意を受ける。
そこでは意味がわからなかったが、会場に入ったとたん、なるほど!、と合点がいった。
京都新聞ビルの地下は、かつて新聞印刷工場だったのだ。
もう何の機械も置かれていない広い場所の壁に、横20メートル以上ある横長の巨大スクリーンが設置されている。

ここに展示されているのは、「坂本龍一 + 高谷史郎|async - immersion 2023」。

坂本龍一が2017年に発表したスタジオ・アルバム『async』をベースに制作された高谷史郎とのコラボレーション作品の最新作。
京都新聞ビル地下の広大な空間に合わせ展開するサイトスペシフィックなインスタレーション

横長のスクリーンの左端から右端まで、様々な太さ、濃さの線が引かれ、それらが、ムニュムニュと動いている。
何かと思っていたら、左端からその線が一つの映像を構成していっているのである。
つまり、スクリーン左端から右端に向かって流れる走査線に従って、絵が構成されてゆくのである。
それは、かつてのアナログテレビ(インターレース)とも言えるし、コピー機ともいえる。
一見無秩序とも思える線が意味あるものに変化していくというのは、たとえば高谷(と晩年の坂本)が参加する「dumb type」のインスタレーション「VOYAGE」(映像ではなくMapが作られてゆく)にも通じる。
坂本の音楽に乗せて、ゆっくりと左端から右端に向けて映像が出来上がると、それはまた、右端から左端まで無秩序な線に戻ってゆく。
それはまるで、前述したように、出来上がった絵をスキャン/コピーしているようにも見える(或いは、最近のデジタルデータのように、映像データをビット変換して電送/復元しているようにも見える(それが、かつて「上階で構成されたニュース(情報)を世間の人たちに知らせるために、大量に新聞を印刷する工場で披露されているところが、意味深い)。
コピー機のようにスキャン光が左から右へ流れる映像もあり、光が走査を始める際のパルス音を含め、それは「dumb type」のパフォーマンス「OR」を想起させ、またスキャンそのものとしては、やはりパフォーマンスの「pH」を想起させる。

巨大スクリーンの映像(パフォーマンス)と音に圧倒されたまま会場を出ると、雷の音が聞こえた。一瞬、これもインスタレーションの続きなのかと混乱したが、ほどなく、京都はゲリラ豪雨と激しい雷に見舞われた。
その数日前には、東京でも豪雨どころか、雹まで降った。

生前の坂本が危惧していたことが、起きつつあるのかもしれない。

ちなみに本稿、新聞記事を読んで「そうだ京都行こう」と思い立ったような書き出しだったが、そうではない。
「dumb type」でも音楽を担当していた池田亮司のライブを、ロームシアター京都で観るために、前々から予定していたことだ(ライブは素晴らしかった)。
その当日の朝刊にそれと関連したような記事が載ったことに、偶然以上の縁を感じた、それが書きたかった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?