中島たい子著『パリのキッチンで四角いバゲットを焼きながら』
『パリのキッチンで四角いバゲットを焼きながら』(幻冬舎文庫、2024年。以下、本書)の著者・中島たい子は『そう思って生きてきた』。
なーんで、そんなことを言われるかといえば……
子どもの頃、夏休みには必ずフランスからいとこたちが遊びに来ていたし、フランスにも行ったことがある。その上で、"心情"的に「ごめん無理」なのである。
そんな彼女が40歳を超えて、パートナーの男性とフランスに行くことになり、まとまった期間、叔父夫婦の家にやっかいになった。
大人になった彼女は、フランスに子どもの頃から持っていたのとは違う印象を受けた。
そのきっかけの一つが、タイトルにもある『四角いバゲット』だ。
本書は、フランス人やフランスで暮らす日本人(及び日本での生活経験がある外国人)が書いた、「フランス人はこんな生活(考え方)をしていますよ」とか「フランス(人)と日本(人)の違い」といった所謂『(一般化した)フランス紹介本』とは違う。
あくまで、「フランスに住みフランス人の妻を持つ(日本人の)叔父一家」の話だ。
それは本書のタイトルにも表れている。
「フランスパン」と云うが、まさにフランスの人は「パン」を愛している。
と感嘆する著者が、『独特の風味がしっかりと香るパンだけれど、どこか豊かで懐かしい』と一番気になったのは、叔父の家で時々出てくる『四角い(レンガみたいな)バゲット』。
それが叔母であるロズリーヌの手作りだったと知った著者は大事なことに気づいた。
お店で出来合いのものを買ってくるのも、別に「オーガニック」に拘らないのも、「服をたくさん持っている」(以前、「フランス人は服を10着しか持っていない」といった本が日本でベストセラーになったことがある)のも、全然構わない。
しかし、「10着しか持っていない」ということに信ぴょう性がありそうなほどに、自分のセンスに徹底的に拘るのは本当のようだ。
そして出来合いのものであれ、古道具だって、自分のセンスで選ぶし、自分のセンスで改造してしまう(叔母が『なんでも作ってしまう』のは、料理だけではない)。
読んでいて興味深かったのは、粗大ゴミ回収の話だ。
ここで問われるのは、ブランドだとか(転売を見据えた)値段だとか評判とかではなく「物そのもの」であり、「自分の日常生活に必要か否か」だ。
つまり、少なくとも著者の知っているフランス在住者は「自身のライフスタイル」への自負と拘りを持っている。
何度も云うが、本書は「フランス人はこうだ」とか「日本人とは違うフランス人」といったものを一般化して決めつけているわけではない。
「自身のライフスタイルへの自負を持っている」人は日本人にも多いだろうし、逆にフランス人だって「持っていない」人は大勢いるだろう。
同じ日本人でもライフスタイルは様々で、そうした人の生活を垣間見ると、結構面白い気づきがあるもので、ちょっと近寄りがたかった人でも親近感が湧いたりすることもある。
著者もあとがきで言う。
巻末には本書で紹介されたロズリーヌの料理レシピが掲載されている。もちろん、あの『四角いバゲット』も。
『まだまだ知らない』ことを教えてくれる本書は、知識だけではなく、体験することもできるお得な本だ。
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