舞台『二次会のひとたち』

演劇は観客に素敵な魔法をかけてくれる。
現実では体験できない壮大な宇宙を見せてくれたり、大きくて素敵なお城で王子様や王女様とのウットリするようなラブロマンスを体験させてくれたり、反対に自分では経験したくない戦争や大失恋なども見せてくれる。
いや、そういった非現実な世界を体験させてくれるだけではない。
日常の、当たり前の風景の中で、「現実では起こらないけれど、こうなってくれたら素敵だな」という願いを叶えてくれるのも、魔法の力だ。

もちろん小説、映画、ドラマ……全ての「物語」は魔法なのだが、とりわけ演劇の魔法感が強烈なのは、自分の目の前で生身の人間やセット・照明・音楽などによって「実感」させてくれるからだ。

舞台『二次会のひとたち』(岡田恵和作・田村孝裕演出。以下、本作)は、演劇の魔法によって、「現実では起こらないけれど、こうなってくれたら素敵だな」という願いを叶えてくれる物語だ。

とある洋館レストラン。
4人の男女が結婚式の二次会を相談するために、新郎新婦の到着を待っている。4人は全くの初対面だが、共通するのは、披露宴に呼ばれず『二次会(だけ)のひとたち』で、おまけに幹事を頼まれたこと。

新婦が働いている会社の先輩である四方田みどり(美村里江)は、ほかの同僚は披露宴に招待されているのに、自分だけは二次会の幹事。
新婦の大学時代の友人である篠田花(内田理央)は、ほかの友人たちと違って披露宴に招待されず、二次会の幹事を頼まれたことに納得していない様子。

新郎が働いている会社の後輩で、新郎のことが大好きで尊敬しているという中内啓介(東啓介)は、二次会の幹事を頼まれて、大役を任されたと張り切り、心の底から頑張ろうとしている。
新郎の地元の幼馴染の遠山信夫(佐藤アツヒロ)も、披露宴には呼ばれていない。

しかし肝心の新郎(山口森広)・新婦(うらじぬの)はレストランに現れず、代わりに「レストランに行けないので、4人で打ち合わせ宜しく」と伝える動画を送ってきた(2人は映像だけの出演)。
この動画がもう、絵に描いたような(実際「物語」として造型された)「バカップル」そのもので、普通だったら激怒して、打ち合わせも行わずに帰ってしまうところだが、「演劇の魔法使い」である4人は、渋々ながらも律儀に打ち合わせを始めてしまう。

本作はしかし、この打ち合わせをきっかけに4人がどのように二次会の準備を進めていくか、その道程を描いた物語ではない。
焦点は4人それぞれの生い立ちから現在までの人生に当てられ、それらがほぼモノローグ(自己紹介)として語られる。
4人のキャラクターは「現実のカリカチュア」というよりは「ほぼフィクション」と言っていい(花だけは「類型的」とも言えるが)。

冷静に考えれば、引っ掛かりが多くて現実離れしたキャラクターたちだが、観客に「演劇の魔法」をかけ、「現実とフィクションの心地良い中間点」に浮遊させておくというのは、さすが岡田恵和の脚本と田村孝裕の演出であり、舞台上の4人の「魔法使い」の力量である。

もともと面識がなく、「二次会の幹事」として集まった4人は、その任が解かれてしまえば、その関係も終わり、またそれぞれの日常に戻って行く。
現実はそうだ。中には、それをきっかけに新たな関係が始まることもあるかもしれないが、大抵、そんな物語みたいなことは起こらない。

物語……。そう、それこそが「魔法」だ。
物語は色んな魔法をかけてくれるが、本作の魔法は「現実にはありえないかもしれないけれど、4人に奇跡が起こってくれたら素敵だな」という観客の願いを叶えてくれる。
そして、この「二次会の幹事」という、ありふれた設定が、「もしかしたら自分にもこんな奇跡みたいなことが起こるかもしれない」という希望を与えてくれ、それで自分も幸せな気分になる。
本作は、そんな素敵な魔法をかけてくれる。

メモ

舞台『二次会のひとたち』
2023年4月15日 マチネ。@紀伊國屋ホール

もちろん4人の俳優の力量があってこその魔法だ。
個人的には、年長カップルが素敵だった。
高飛車で仕切り屋で皆に「幹事長」と呼ばせるというみどりを嫌な女ではなく、「頼れる女性」として説得力を持たせた美村里江さん。
一番年上なのに、自分のことを「のぶちん」と呼ぶほど精神年齢が幼い信夫を愛すべきキャラクターとして造型した佐藤アツヒロさん。「アイドル」とはこういう人の事を言うのだろう(ちなみに信夫がモテるのは、一見「少年のような心」を持っていると思われるからで、すぐにフラれるのは「少年ではなく、本当に子供」だということがわかりやすく露呈するからだ)。

本作は、岡田恵和・田村孝裕両氏のコンビによる、"女神"シリーズの3作目になる。
前2作もやはり俳優4人による会話劇で、幼馴染の女性3人+男性1人という組み合わせだった。今作は岡田氏いわく『違った取り組みの会話劇にしようと』企画されたという。

何度か書いているが、それにしても私は「唯々観たいものを脈絡なく観ている」だけだと痛感するのは、前作『パークビューライフ』(2021年)を観た帰りの電車で、「女性3人に男性1人のハートフルコメディーって前に観た事あるなぁ」と思いながらパンフレットを熟読していたら、巻末に『不機嫌な女神たちプラス1』(2019年)が紹介されていた、ということだ(本作は、ちゃんと理解した上でチケットを取った)。

本当にミーハーだなぁと痛感するのは、観劇の目的が、1作目は和久井映見さん・羽田美智子さん・西田尚美さんが観たかったから、前作は倉科カナさん・中川翔子さん・前田亜季さんが観たかったからということだ。

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