"くだらない"を突き詰めた大名作映画『野球どアホウ未亡人』(TAMA CINEMA FORUM 2023 上映作品)
くだらない!
この感想は、映画『野球どアホウ未亡人』(小野峻志監督、2023年。以下、本作)にとって批判ではなく大賞賛を意味する。
何故なら、小野監督自身が「"くだらない"ことしかない映画を作ったらどうなるのだろう?」という発想で本作を撮ったというのだから。
その結果がなんと、封切した池袋シネマ・ロサで満員御礼を記録、以降の地方上映でも軒並み満員、この「TAMA CINEMA FORUM」でも大勢の観客が押し寄せる(9割方、私を含めた中年男性だったが)という快(怪?)進撃だ。
と、TAMA CINEMA FORUMのサイトでは尤もらしく紹介されているが、何のことはない、才能ある選手を育て上げるために手段を選ばないマッド的な重野の犠牲になった夫の復讐を、妻・夏子が成し遂げる?というストーリーで、それは別に野球とは関係がない(だって、野手なんて一人も登場しないのだから)。
しかし、本作においては野球であることが重要なのだ。
何故なら本作は、1970年代の「(少年漫画の)魔球ものスポ根」と「(もちろん大人の)ピンク映画」の合体形だからだ(とはいえ、お色気シーンはなく、"R指定"も全くついていない)。
こんなに真面目に書いているのがアホらしくなるくらいくだらないのだが、しかし、「なんちゃら養成ギプス」で「魔球」を特訓し、それに勝つために「秘打」を繰り出し……を(21世紀も1/4に達しようとする今)「大真面目」にやられると、何だか無性に感動してしまうのだ(編み出した魔球が、これまた小学生レベルのくだらなさというのが、たまらない)。
上で「お色気シーンはなく」と書いたが、しかし、(21世紀も1/4に達しようとする今)『後生だから体だけは堪忍して』などというセリフを聞くと、何だか無性にたまらない気持ちになってしまうのだ。
大型シネコンで上映される人気若手俳優が出演するキラキラ映画も素敵だし、本格派実力俳優が熱演する壮大なスペクタクル映画も素敵だ。それらに観客が集まるのはとても素敵なことだ。
一方で、こんな「くだらない」映画が小さなミニシアターを満員にし、そこでは怪しげな笑いが充満する……
日本はなんて懐が深い国なのだろう!
それはもちろん、「映画」というものの振り幅の広さがあってのことだが。
メモ
映画『野球どアホウ未亡人』
2023年11月19日。@ベルブホール(永山公民館) (TAMA CINEMA FORUM 2023)
当日は、重野役の藤田健彦氏が劇中の多摩川メッツのユニホームを着て入り口に立っていたり(その後、観客と一緒に映画を観ていた)と手作り感満載で安心できる雰囲気だった(観客はほとんどオヤジだったし)。
それにしても、TAMA CINEMA FORUMのプログラム選択は少しおかしくないか?
過去に私が観たのだけでも、『監督失格』『テレクラキャノンボール』『㊙色情めす市場』『月夜釜合戦』(監督、公開年省略)……
TAMA CINEMA FORUMは、映画と映画好きの懐の深さを感じさせてくれる。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?