舞台『鎌塚氏、羽を伸ばす』

チタルお嬢様が帰って来た!
父上を亡くされて、自身が綿小路家の当主となって5年。
あの頃のキュートさを残しながらも、当主としての貫禄や大人の色気も身につけて……

M&Oplaysプロデュース『鎌塚氏、羽を伸ばす』(倉持裕作・演出。以下、今作)は、2011年に始まった、「現代の日本に貴族制度があったら」という架空の設定の下、三宅弘城演じる貴族に仕える《完璧なる執事》鎌塚アカシを主人公にした「鎌塚氏シリーズ」の6作目となる。
今作は、シリーズ4作目『鎌塚氏、腹におさめる』(2017年。以下、前回)に登場した、二階堂ふみ演じる綿小路チタルが再登場。

探偵"ごっこ"(本人は大真面目だが)が趣味のチタルお嬢様は、"ピンク・パンプキン"なる貴族の屋敷を専門に狙う窃盗団に盗みを働かれた、という設定で、鎌塚や召使たちを巻き込んで、推理"ごっこ"に勤しんでいた。
そんな中、当主だった父親の殺人事件に巻き込まれ……というのが、前回のお話。

それから5年の間に、チタルは亡き父の後を継ぎ当主となり、鎌塚は北三条家に仕え(『鎌塚氏、舞い散る』(2019年))、そこでシリーズ最初より煮え切らない微妙な恋愛関係を続けてきた女中頭・上見ケシキ(ともさかりえ)と決定的な破局を迎え(とはいえ、今作の半年くらい前に、二人を下北沢のザ・スズナリで観たような……)、当主の北三条マヤコの計らいで「傷心旅行」として豪華列車での旅に出掛け、その列車で偶然(?)にも2人が再会する……というのが、今作の話。

もちろん、チタルお嬢様登場とあれば、ストーリーは推理物(ちなみに、上見ケシキが登場する回は、「行き違い・すれ違い・勘違い」で話があらぬ方に向かってしまうドタバタ劇)。
なので、あらすじはここでは書かないが、前回同様、単に真犯人を見つけ出して無事解決……とはならない、というかオチはそこではなく、「何故こんな騒動になっているか」なのである。
それが最後の最後に明かされて、「本当に良く出来た物語だなぁ」と感嘆し、「真(?)犯人」の事を思うとちょっぴり胸が痛みながらも、それでもやっぱり「気持ちの良い話だったなぁ」と劇場を後にできる。

ところで、「鎌塚氏シリーズ」での見どころの一つは、唐突に始まる「昭和歌謡曲の熱唱」。
5作目『舞い散る』は「いとしのエリー」(サザンオールスターズ)、4作目はチタルお嬢様と幽霊になった父親(大堀こういち)がデュエットする「林檎殺人事件」(郷ひろみ&樹木希林)、3作目『降り下ろす』は「Woman "Wの悲劇より"」(薬師丸ひろ子)。
いつも唐突に始まって虚をつかれるのだが、私の記憶で一番衝撃的だったのは2作目『すくい上げる』で花房センリ役の満島ひかりが突然豪華客船の甲板に走って行ってスタンドマイクで歌い上げる「プレイバックPart2」(山口百恵)だ。余りの出来事に、腰が抜けそうになった(気になって1作目の『放り投げる』を少し見返したが、歌のシーンは見当たらなかった。なかったとしたら、2作目でいきなり始まったという衝撃も影響したのだろう)。
今作は腰が抜けるというか、膝カックン的脱力を誘発するタイミングと選曲だった。

メモ

M&Oplaysプロデュース『鎌塚氏、羽を伸ばす』
2022年7月23日マチネ。@下北沢・本多劇場

とりあえず私は、1作目から今作まで皆勤である。
今後もシリーズが続く限り、皆勤するつもりである。


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