渡辺美里『misato born Ⅳ 愛と感動の超青春ライブ』~EPICレコード創立45周年記念 毎木7ライヴ・フィルム・フェスティヴァル2023 Vol.6~

EPICレコード創立45周年記念として、毎週木曜日に1980~90年代のライヴ・フィルムを映画館で上映する企画の第6弾(シリーズは全7作品)は、渡辺美里『misato born Ⅳ 愛と感動の超青春ライブ』(以下、本作)である。

1989年11月30日、東京ドームにて行われた「live SUPER Flower bed BALL '89-史上最大の学園祭-」の映像を中心に、嵐の西武スタジアム球場でのライブ「SUPER Flower bed BALL '89」の名シーンをインサートした日本音楽史に残る伝説のライブ。

本作紹介文より

私は、過去の拙稿で何度か、「中学2年生の時に観た小泉今日子さんのコンサートでライブ鑑賞・観劇に目覚めた」と書いた。
それは間違っていないのだが、本格的にハマったのは、実は高校1年生(1986年)の時に観た、渡辺美里の第1回目の西武球場ライブ("KICK OFF")……の、「大阪球場(21世紀の今となっては、あの難波駅の真横にプロ球団の大きな野球場があったなんて想像もできないが)版」だった(大阪版はいつしかなくなったが、西武球場版は球場名や設備(屋根!!が付いた)の変遷と並走しながら、2005年の20回(V20."NO SIDE")まで毎年開催された)。

1986年8月2日。
高校1年生になったばかりの私は、滞在していた大阪の親戚の家でコンサートを知った。
早速大阪球場に向かい、当日券を求める長蛇の列に並び、スタンドの最上段の席を手に入れた。コンサートの最中のことは全く覚えていない。ただ、ものすごく"熱い"ライブだったことだけは確かだ。
それは、予定されたアンコール曲も演奏し終わった後、客電が点き、終了のアナウンスが繰り返される中、誰一人として帰らない観客のコールが長く続いたことが証明している。
それはどのくらい続いただろう。体感的には10分を超えていたように思う。
観客が諦め-いや、ライブ開始から振り絞った力が尽きようとしていたと言った方がいいかもしれないーかけた頃、美里(あえてこう称す)が独りでステージに戻ってきた。
彼女は、アカペラで「My Revolution」を歌い始めた(途中から、ゲスト出演していた小室哲哉(TM NETWORK)のピアノ伴奏が入ったと思う)。
あの時、美里と観客は一体になった。その一体感と感動に私は衝撃を受け、気がつけば泣いていた。そして、ライブにハマった。
それは私の中での「伝説」であると同時に、この渡辺美里の夏のスタジアムライブにおいて語り継がれる「伝説」ともなった。

次に語り継がれる「伝説」が、美里が『雨のバカァァァァ!!』と泣き叫んだ、1989年7月26日の西武スタジアムライブだ。
20年の歴史の中で唯一の2日間連続公演、その2日目のライブは、激しい豪雨と落雷のため、消防の要請により途中で打ち切られた。
本作は、そのシーンから始まる。

映像からでもはっきりわかるほどの豪雨。時折空が光る。
その中で、何度も顔を拭いながら美里は「パイナップル ロマンス」を歌う。音響は通常のステレオに近い。
歌い終えた美里の背後からスタッフが駆け寄り、彼女に少し声を掛けた後、観客に中止を告げる。
いきなり観客の悲鳴(怒号でなかったのが幸いだ)が、サラウンドで聞こえ始める。
スタッフが引き揚げた後、ステージ上の美里は長い間嗚咽した。その声は聞こえない。
豪雨の音が、観客の上から聞こえる。映画館にいる我々は今、あの時の観客となり、美里と共に豪雨に打たれている。

やっと気を取り直した美里は、「一番歌いたいのは、私なんだけど……」と切り出し「すき」を歌いそして、『もっともっと、いい歌をいっぱい準備してたのに……青春は上手くいかないもんだ』と言った後、叫んだ。

青春の馬鹿野郎!
雨のバカァァァァ!!

5カ月後、西武スタジアムでの「上手くいかなかった青春」のリベンジを、東京ドームで果たす。

1曲目は、あの「パイナップル ロマンス」。
映像はそこから切れ目なく、「It's Tough」「Boys Cried -あの時からかもしれない-」「10years」「跳べ模型ヒコーキ」「ムーンライト・ダンス」と「My Revolution」と続く。

そこから唐突に、あの西武スタジアムへ戻る。
そう、あの日最後に歌ったのは、アカペラの「My Revolution」だった。
私は豪雨の西武スタジアムの向こうに、あの暑い夏の熱い一日を思い出して、泣きそうになった。

映像は再び東京ドームに戻り、「虹をみたかい」「恋したっていいじゃない」と続き、ラストは豪雨の中で観客と共に歌った「すき」を、時折涙ぐみながら、しかし、明るく歌い切った。

美里は、立派にリベンジを果たしたのであった。

メモ

渡辺美里『misato born Ⅳ 愛と感動の超青春ライブ』
2023年10月26日。@新宿バルト9(上映前トークショーあり)

本文で、1989年の西武スタジアムライブについて「20年の歴史の中で唯一の2日間連続公演」と書いた。
豪雨の前日、私は西武スタジアムにいた。
では、豪雨の当日は何をしていたかというと、実は、中野サンプラザ(2023年の今年、惜しくも閉館してしまった)で小泉今日子さんのライブを観ていたのである。
横断歩道を渡れば中野駅なのに、道路が冠水していたか、或いは豪雨に立ち往生したのか忘れてしまったが、本作の豪雨の中の「My Revolution」を観ながら、あの時感じた心細さを思い出し涙ぐんでしまった。

本文にも少し書いたが、豪雨の音が映画館の頭上から降ってきたのは本当に驚いた。さすが、5.1chリマスター版。

新宿バルト9では上映前に、ビビる大木氏をゲストに迎え、30分程のトークショーが行われた。その中で彼は「49歳になった」と発言しており、ということは、現在53歳の私と4つ違いということになる。
彼は、美里さんの4枚目のアルバム『ribbon』(1988年)について熱く語っていたが、私と同年代の人にとっては、2枚目のアルバム『Lovin' you』(1986年)がそれに当たるだろう(ちなみに私は、ファーストアルバム『eyes』(1985年)を発売日当日に買った)。
この年になると4つ違いなんて大した差ではないと思っていたが、やはりジェネレーションギャップを感じずにはいられなかった。


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