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エトセノオンガク 2

2020年1月12日 横須賀かぼちゃ屋。

etc.(エトセトラ)の自主企画"ヨリドリミドリ"が開催された。出演者は主催のエトセを中心に、横須賀・横浜・県央から同世代の高校生バンドがズラリと揃った。

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(ヨリドリミドリ、イベントのフライヤー)

この日発売した3曲入りのCD "Assort"と、ゆーなデザインのTシャツが入った段ボールを抱えて、ひとり搬入をする。かぼちゃ屋のスタッフさん以外、まだ誰もいなかった。一番乗りだ。

お客さんは集まるだろうか、CDやグッズはちゃんと売れるだろうか、自分とメンバーがやってきた頑張りは、結果としてきちんと残すことが出来るのだろうか。胸に細やかな不安と緊張を抱えながら、準備をした。

メンバーや他の演者が続々とかぼちゃ屋に集まる。殺伐とした空気感になるイベントの現場もあるが、高校生バンドのイベントは、入りからリハーサル中も演者が皆和気あいあいとした空気感があって良い。ライブハウスが昼休みの教室みたいな空気になり、先ほどの不安や緊張も少しずつ柔いでいく。この日が楽しい1日になれば良いじゃないか、という気持ちに切り替わる。

エトセのリハーサルが始まる前、ベースのすずと話してたら「新曲やりますよ」と言うのでテンションが上がる。Assortに収録されている曲、それ以降で作られた曲はまだ聴いたことがなかった。どんな曲なのだろうかと期待が高まる。

エトセのリハが始まった。初めての自主企画に特に大きな緊張もしてるわけでもなく、しっかりと地に足がついた表情でリハーサルが進む。新曲もこの時点でやっていたと思うが、この時他の演者とやり取りなど、リハをチェックしながらいろいろと動いていたせいか、あまり印象に残らなかった。

他のバンドも順調にリハーサルを終えて、かぼちゃ屋がオープンした。オープンして間も無く、20-30人ほどのお客さんが入場してかぼちゃ屋のフロアが良い具合で埋まってくる。このペースなら集客もきっと大丈夫だろう。いっちゃんのご両親や、前述した丸原軍団もやってきて挨拶をする。久しぶりにお会いしたなごのお母さんは、やっぱりなごにそっくりだった。

最初のバンドのライブが始まり、タスキを繋ぐようにバンドからバンドへライブの熱が移る。激しく踊ったり、手を上げたり、モッシュをしたり、フロアにいるお客さんにもその熱がきちんと伝わっているのが分かる。

横須賀の高校生バンド、SENCYがライブの途中、レコ発のお祝いということで、ライブを一旦中断して、エトセの一人ひとりにプレゼントを渡す場面があった。

SENCYのメンバー5人はエトセと同い年で、自分も面倒をみている高校生バンドのひとつ。彼らもレーベルが主催する高校生バントイベント「TEENAGE UNITED」の常連でエトセともそこで繋がった。同世代の横の繋がりがきちんと育まれていることに、地元横須賀で音楽を作る者のひとりとして嬉しさを覚える。

エトセの出番が近づいてきた。入口の付近の物販スペースに座っていた自分は、ライブの演奏を録音するレコーダーの準備に取り掛かる。準備を終えて、メンバーがいる楽屋へ。

リハと違って、緊張した表情の4人がかぼちゃ屋の暗い楽屋にいた。緊張や不安もあったと思うが、多くのお客さんが来てくれたこと、自分たちのCDがリリースできたことで、いろんな感情が同時に溢れていて、上手く処理できていない様子だった。そんな時、どのような言葉をかけていいのか一瞬迷う。恒例の4人が円になって、「せーの」で隣の人の背中を叩く気合い入れの儀式が行われた後、「とりあえず楽しんでこい」と言って送り出すことにした。こういう時にバンドの気持ちを上に向かわせる言葉がポンと出てくればと、自分を少し責めた。

ライブは少しぎこちない雰囲気でスタートした。1曲目から新曲だったが、ぎこちなさから抜け出せない。故にこういう時は曲が良くてもグッとこないが、あとで聴き返すと良い曲ではあった。

2-3曲目あたりでようやくいつもの雰囲気に戻ってきた。新曲から、Assortに収録されているdepressay → in organic の流れで、depressayのベースのイントロフレーズをループさせたり、in organicでは曲が始まる前にドラムとベースのセッションのようなフレーズを入れて、上手く曲と曲を繋ぐ。

固さが取れてきたら単純にテンションが上がってきたのか、今度は曲のテンポがいつもより速くなる。だが、それ自体は悪いことではない。演奏中にテンションが上がったら、それに身を委ねるようにしたほうが、結果的に良いライブになる。バンド界隈に身を置いて10数年足らずの経験だが、そう言い切れる確信はある。

安倍首相のような滑舌による、いっちゃんのMCを終えて、Assortのリードトラック"モノクロームス"で本編を締める。イベントの少しに前にこの曲のMVを公開したのが功を奏したのか、フロア前列のお客さんが一緒に歌っていたのにグッと来た。その景色をみれただけでも、この数ヶ月いっちゃん・なご・ゆーな・すずと頑張ってきてよかったと思える。

ライブを終えて、アンコールで呼ばれてすぐステージに戻る。もう1曲目のようなぎこちなさは消え、不安も緊張も受け入れて純粋に楽しんでいるような表情になってきた。

アンコールで演奏された曲も新曲だった。サビでいっちゃんとすずがハモりつつ、なごが掛け合いのコーラスを入れる絶妙なコーラスワークが効いた曲。2番のサビが終わった頃には「すげえ曲だ」という予感が確信に変わる。あとでタイトルを聞いたら"Weekend Heroes"という曲名だった。

演奏が止み、無事にレコ発のライブが終わった。終了直後、いっちゃんはチューニングがずれていた悔しさで泣いていたが、ステージ上で記念写真を撮影する前、その涙をすっと閉じた。彼女の心の繊細さと強さが伺える一瞬の出来事だった。

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(レコ発の記念写真 photo by Kenji Tanaka)

記念撮影も終わり、物販のスペースでCDを販売する。幸いCDもTシャツも予想以上の売り上げを達した。良いライブをした後、必ず物販は売れるという法則(上田調べ)なので、この日のライブは良かったということが結果的に現れた。多くの人が買ってくれるが、やはりここでの丸原軍団は強かった。一気にCDを10枚買ってくれた。

レコ発を終えた安堵に浸りながら、打ち上げ中にメンバーと話し、Weekend Heroesをシングルでリリースしようと提案した。充実した気分で帰宅し、翌日に録音していたライブの音源データを整理して、Weekend Heroesを聴きなおす。この曲の良いところや荒削りな部分が改めて浮かびあがってきた。

メンバーに音源をデータで送った後、メンバー以外のもう一人にWeekend Heroesのデータを送る。川口淳太。地元の後輩でアレンジのセンスに長けているバンドマン。LINEの返信が返ってきた。「アレンジで入りたいっす」(続く)


■ Weekend Heroes リリックビデオ


■ etc. / Assort CD発売中(BASE)


■ etc. / Assort 配信中

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