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高雄滞在記(2024.03)その2 自転車を買う

 CarryMeという名前の折りたたみ自転車がある。台湾のPacific Cycles(太平洋自行車)というメーカーの自転車で、折りたたまれた状態の床面積はA4サイズという驚異的な小ささである。

CarryMe
Pacific Cycles Japan HPより借用
CarryMe(折りたたみ時)
Pacific Cycles Japan HPより借用

 ブロンプトンを持ってはいるものの長距離の輪行などが少しつらくなってきたこともあって、もっと小さくて軽い自転車がほしいなぁと思っていたときにこのCarryMeの存在を知った。そして調べていく内に分かってきたのが、この自転車は日本でも買えるが台湾で買った方が安いらしい(内外価格差というやつか)ということだ。あっ僕3月にちょうど台湾行くじゃないか!台湾で買おう!と軽い気持ちで決めた。
 で、台湾で自転車を買った人の情報などをネットで見ていると、GIANTやMERIDAなどの自転車を台湾で買って持って帰ってきた人が結構いた。中にはCarryMeを買った人もいる。ほうほうたくさんいるねぇと意を強くしたが、どの人も、台北で買っている。高雄で買ったという人が皆無なのである。ううむこれはどうしたものかと思ったが、まぁ台北も高雄も大して変わらないだろうと楽観視することにした。高雄も大きい街であることだし。Google Mapで高雄市内を検索し、そんなに多くはないスポーツバイクの専門店を数軒見つけ、その中でもPacific Cyclesの代理店である正爵單車という店に目星をつけた。美麗島站のすぐ近くにもおしゃれなプロショップがあるにはあったが、あまり惹かれなかったのだ(そして今は自分のその嗅覚を自慢したい)。

 高雄に着いて宿にチェックインしてすぐ、正爵單車に向けて歩き出した。Google Mapで2.4kmとのことだったのでタクシーに乗ってもよい距離(そして台湾のタクシーは安い)なのだが、せっかくなのでぼちぼち歩いて行くことにした。台湾に着いたばかりであるので、ただ歩いているだけでもう楽しい。あちらに立ち寄りこちらで写真を撮り、普通だったら30分くらいのところを1時間かけて歩いた。

謎のワード「神認識」や植物あふれる路地裏
ホンマに大丈夫なんかとなりのト○ロなど
高層ビル群のど真ん中にある公園
I ❤︎KAOHSIUNGと書かれた、ちょっとPaul Smithっぽい給水塔

 かなり長い散歩の末に辿り着いた正爵單車は、店の左半分が小綺麗なショールーム的な感じで、右半分が修理スペースのような感じであるがたくさんのフレームがぶら下げられてもいる。そして台湾の路面店にありがちな、店の前の歩道は店の一部といった感じで、自転車用の工具や工具を入れておくワゴン、修理中の自転車本体や部品などが展開されている。

正爵單車
高雄で自転車買うなら是非ここで!
台湾の自転車屋さんに大興奮

 店の中ではおじさんがなにか作業をしており、軒先では中学生か高校生くらいの男の子がパンク修理をしている。休日だからお店を手伝っているのだろうか。台湾の自転車屋さんってこんな感じなんだ…!って感動しながら眺めているとお店のおねえさんに話しかけられた。台湾華語がまったく分からないので「日本から来た、CarryMeを探している、すぐに乗りたい、4日間高雄に滞在してその後CarryMeを日本に持って帰りたい」といった内容のことを英語で伝えた。おねえさんは “Oh, CarryMe. Wait.”と言って左側のショールームの方へ案内してくれた。試乗用のCarryMeをゴロゴロと引っ張ってきて「お前CarryMeに乗ったことはあるか」と訊かれたので "Never."と答えると、CarryMeを組み立てて “Try it.”と渡される。乗ってみてとくに問題なかったので「大丈夫だ。乗れる」と答えた。このおねえさんはあまり英語が得意ではないらしく、このへんからGoogle翻訳アプリが活躍することとなった。

「何色にする?」
「何色があるんだ?」
「すぐに乗れるのは赤と青と緑と黄色だ。限定カラー(青緑みたいなの)もあるぞ」
「その限定カラーがいいな」
「じゃちょっと待ってて。持ってくる」
「輪行袋(CarryMe専用のキャリーバッグ)もほしいんだ」
「うーんあったかな」

 このへんで奥からおばさんが登場した。おばさんは英語が堪能で、僕にいろいろ訊いてきた。

「お前いつまで高雄にいるんだ」
「4日後の3月11日までだ」
「じゃ箱を置いておいてやるから最終日に取りに来い」
「OK。ありがとう」

 そんな会話をしているうちにおねえさんが箱からCarryMeを取り出し組み立ててくれた。前後のライトをおまけしてつけてくれた。カードで支払いお礼を言って走りだそうとすると「写真を撮らせてくれ」と言われたので、自転車を持って笑顔で写真を撮ってもらった。僕の携帯でも撮ってもらった。僕はあらためて謝謝を言って走り出した。

写真を撮ってもらった

 その日のうちだったか翌日だったか、正爵單車のインスタアカウントに僕の写真が載った。そしてそのときに気づいたのだが、僕が走り去る後ろ姿をばっちり撮られていたのだ。僕はくすくす笑いながらその投稿に「昨日はありがとう。後ろ姿の写真もありがとう」とGoogle翻訳アプリの助けを借りてコメントをつけた。

ばっちり撮られとったwww

 そこから4日間、ここぞとばかりに高雄市内を走りまくり堪能した。

ここぞとばかりに走りまくり

 4日後の3月11日、9時の開店を待って正爵單車を再訪。英語の堪能なおばさんが僕に気づいてハイ!と声を掛けてくれた。箱を引っ張り出し、めちゃくちゃ丁寧に梱包してくれた。”Airplane?”と訊かれたのでイエスと答えると、タイヤの空気を抜いてくれた。タイヤの空気を満タンに入れたまま飛行機に乗せると気圧の関係でチューブやタイヤが破裂する可能性があるのだ。おねえさんも出てきてハイ!と笑顔で声を掛けてくれた。
 梱包を終えた箱を受け取り、僕は何度も謝謝を二人に言って、正爵單車を後にした。とてもいい自転車屋さんに巡り会えて、本当に幸せな気分だった。

きれいに梱包してもらった(宿に戻ってきてから撮影)

 さて、ここからひとまず宿まで自転車を持って帰らなければならない。当然ながら、梱包されているので自転車に乗ることはできない。最初にここに来たときは手ぶらだったのでふらふら歩いてきたが、この箱を抱えて2.4km歩くのはさすがに無理だ。ということでタクシーをつかまえた。
 強面のタクシーの運ちゃんは僕の荷物を見ると親指で後ろを指し、トランクを開けてくれた。中には開封されていないボックスティッシュが置かれており、それを除けて自転車を置こうとすると運ちゃんは首を横に振り「そのティッシュはクッションのために、お前の持っている箱の下に置くのだ(とたぶん言っていたと思う)」と言って、ボックスティッシュが潰れるのもおかまいなしに僕の自転車をその上に置いてトランクを閉め、ニコリともせずにサムアップした。
 スマホのGoogle Mapで宿の位置を表示し、Take me hereと告げると、運転手のおじさんは車載ホルダーに僕のスマホをがちゃっと嵌めた。僕は経路ボタンを押してカーナビモードにした。おじさんはうんうんとうなずき、車をスタートさせた。黙って走らせればよいものを「ここを左に曲がるけどいいか(とたぶん言っていたと思う)」「次を右に曲がるけどいいか(とたぶん言っていたと思う)」ととても丁寧に訊いてくれる。僕は笑いをこらえながらそのたびごとにイエス、イエスと答えた。
 無事宿の前に到着し、料金は140元だった。僕は150元渡してNo need changeと言った。運ちゃんはそこで初めてにこっとして謝謝と言った。そして自転車を下ろすのを手伝ってくれた。僕はあらためて謝謝と言って、手を振った。

 そんなわけで、いろんな人の親切を経て、僕は今日本でCarryMeに乗っている。とても、愛着が湧いている。台湾限定カラー、そして台湾限定の柄(普通のCarryMeはドット柄。僕が高雄で買ってきたのは花(梅?)柄)なので、そんじょそこらで走っているCarryMeとは一味違うぜ。

日本に帰ってきてからもいろんなところに連れて行っている

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