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はじまりのハワイ2

ハワイ島から日本へ帰る途中、私はひとつの寄り道をしました。“死と再生”のハワイ島リトリートのおかげで、すっかり忘れてしまっていたけれど、もともとの私のハワイ旅の意図は「フラで表現されているハワイの自然を実際に見たい」だったのですから。せっかくならば本場のフラも見てみたいということで、滞在を数日延ばしてオアフ島へ移動し、プリンスロットフラフェスティバルというフラのイベントを見てから帰国することにしていました。
日本でよく知られているフラ・イベントとしては、メリーモナークという大会が最も有名でしょうか。メリーモナークが競技会形式で争われるのに対して、プリンスロットフェスは非競技の大会で、あちこちの島から出場したチームが自分たちの継承してきた伝統文化を披露するといった形のイベントでした。ウクレレやエレキギターなど皆さまご存じのあのハワイらしい音楽と共に踊るモダンフラもあれば、大きなひょうたんのような太鼓と歌だけをバックにした伝統的な古典フラもあり、祝詞のような歌声を披露される方もあれば、ブラスバンドもあり。ハワイの多彩な文化と歴史を音楽と踊りで見せていただきました。
会場となったイオラニ宮殿がまたなんとも素敵な雰囲気で、イベントを見に来るお客さんたちは、緑の芝生の上の好きな場所に各自が椅子やシートを敷いて、のんびりとステージを眺めているのです。宮殿自体は白亜の欧風建築で、ステージの背後には白い丸屋根の東屋がありました。建物の白、庭園の樹木の緑、出演者たちのまとったカラフルな衣装やあでやかな花飾り。ハワイの晴れた空の下、さまざまな色のコントラストが目に鮮やかでした。はじめは食い入るようにフラを見始めた私でしたが、夢中になって身を乗り出していると、ぴんと張った背中がだんだんと疲れてきます。周りを見渡せば、思い思いの恰好でのんびりすごすお客さんたち。その姿に背中を押されたように次第に力が抜けていき、そのまま芝生に寝転んで上を見ながら耳だけを澄ましてみました。聞こえてくるハワイアン・ミュージックと呼応して、ざわざわと葉を鳴らす樹々が枝を揺らしています。なんて不思議な……人の奏でる音楽と王宮の森が、コール&レスポンスするだなんて。魔法ってホントにあるんだな、フラって魔法だったんだなぁ。そんなことを感じながら、南国の風と音楽に浸りました。

このイベントでもうひとつ不思議だったこと。それはフラの各チームが踊るごとに、その場の雰囲気がどんどん変わっていくことでした。プリンスロットフラフェスティバルには、ハワイのあちこちの島から出演者が来ていました。アナウンスで「次の曲は〇〇島ならではの風を表現した踊りです」といった紹介をしてくれるのですが、そう言われてフラを見ているせいか、自分がホノルルの市街地に居ることを忘れて、どこかの島の浜辺に立って風を受けているような気分になったりもました。曲によって、ウキウキと楽しくなったり、頭がぼーっとしたり、胃腸のあたりが気持ち悪くなったり。「あれ?この感じって・・・」私には心当たりがありました。ハワイ島のスポットめぐりをしていた時と同じなのです。
ハワイ島は大きな島で、場所によって全く趣が異なります。白い砂浜のビーチもあるし、ゴツゴツの溶岩が海まで続くところもあり、黒い溶岩の隙間にほんの少しの草が生えているだけのエリアもあれば、鬱蒼とした濃緑の森もあるのがハワイ島です。私たちは、滝へ行ったり、浜辺で泳いだり、溶岩洞窟の中へ入ったりと、様々なスポットを回ったのですが、私はこの時初めて、土地のエネルギーと自分の間に相性というものがあることを知りました。例えば、ひと口に滝と言っても、まったく違う感覚が私に起こるのです。びっくりするほど身体が軽くなったレインボーフォールと、対照的に、そのあとランチが食べられないほどお腹が気持ち悪くなったアカカの滝。みんなが一斉に気分が悪くなるということもなく、どこへいくと元気になってどこへ行くとぐったりするのか、人によって異なるということもわかりました。相性としか言いようがない。そんな印象でした。
プリンスロットフェスティバルで、あちこちのチームの踊りを見ていた時に起こったのは、まさしくその感覚でした。見ていると妙に元気になる踊りがある一方、間近で見ているとなぜだか気持ち悪くなる演目もあって、ステージ前を離れるとケロリと治ったりしました。あれらは島ごとの聖地にまつわる踊りだったのでしょうか。実際のスポットに立っているわけじゃないのに、踊るだけでの場のエネルギーを感じさせるなんて……。信じられない。でも、信じてみたい。ひょっとして、あの人たちは本当にそれぞれの島の精霊を呼びだして踊っているのかもしれない。ああでも、そんなことってあり得るだろうか?対象物の形や動きを真似るだけで、精霊を呼びだすだなんて……。いやいや、でも、わかる気がする。私だって、木の形を真似ることで教えを受け取り、滝の動きを真似たフラを踊る時には目の前で幻の滝を見ているじゃないか!そう思った方が身も心も軽くなり、そう思った方が踊っていてより楽しい。なら、もうそういうことでいいんじゃないかな。フラの魔法を信じてみようか。南の風に包まれながら、カオスな感覚に戸惑いながら、そんなことを思ったのでした。

摩訶不思議なプリンスロットフェスティバルを体験した後、私は、滞在していたホステルのそばにあったハワイ王家ゆかりの聖地を訪れて、ハワイにお別れを告げることにしました。小高い山に囲まれた平らな土地を風が吹き抜けていく気持ちの良い場所で、赤い土と草木の緑の中にストーンサークルで囲まれた岩の群れがありました。ここで風を感じているのが好きで、オアフ島滞在中、自転車を借りて毎日通った場所。このハワイの旅では、よくわからないけれど大切な教えをたくさんいただいた気がして、お気に入りのこの場所でお礼とお別れを言いたかったのです。サークル内の岩のひとつひとつが王族に伝えるための知恵を表していると聞きましたが、細かいことはよくわかりません。わかるのは、この身体で感じている心地よさと安心感だけ。それでいいような気がしました。
心の中でお礼を言い終えて目を開けると、ふと、あるヤシの木の根元に視線が惹きつけられました。ヤシの実の端が割れて、そこからニョキっと幹が生えて上へと伸びています。種、母胎、肚……そんなキーワードが連想されて、突如フレーズが思い浮かびました。
(神宿る肚を大事にしなさい……とかそんな感じ?)
私は面食らい混乱しました。何のこと?私が考えるような類の言葉じゃない。どういうこと?何が起こったの?そんな混乱した気持ちのまま、空港へ向かい帰途についたのでした。この意味がわかったのは、帰国後の次の旅、熊野でのこと。本当の熊野に初めて触れた私の旅は、ハワイからすでに導かれていたのでした。

続く?

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