見出し画像

ナウシカを読む その2-女性らしさって何ですか?-

前回に引き続き、漫画版『風の谷のナウシカ』を読む連載の2回目。
今回はキャラクターにフォーカスして、主人公のナウシカを解剖してみる。

先月末の読書会で、私は、ある衝撃を受けた。
「前回多かったのが、『ナウシカは絶対彼女にしたくないタイプ』という男性の意見でした」
「恋もしない女の子には共感しにくい……」
そんな声を聴いて、けっこうガツンと喰らった気がする。
(ナウシカで恋バナだと!?)
その視点は、今までの私には全くなかった。
いや待て。ほんのちょっとはあったかも。
私の友人に「僕の初恋はナウシカさんです!」という男性がいる。
あの時は「ほほえましいエピソードだな」くらいに聞いていて、深くは考えてなかった。
けれど、今回書いてみたら、これが実に面白い観点だったのだ。

ナウシカの女性らしさと男性らしさ

私自身は、これまで、ナウシカを女性らしいキャラクターだと思ってきた。
でも、よくよく考えてみると、彼女にはいろんな側面がある。
自然学者、パイロット、動植物との共感能力者、族長の娘、剣士、村人のアイドル、為政者兼外交官、戦闘リーダー、即席ベビーシッターやら保育士、看護師的なところもあった。
うーん、多い(笑)
私は、この中で言えば、共感能力や村人のアイドル、看護的なところをフォーカスして見ていたかもしれない。
族長としての動き方も、女性性らしいリーダーシップだと思っていた。
(お時間のある方は、以下ご参照くださいませ。長文スミマセン)

私見だけれど、私は「日本の古代は母系社会で、男女ツートップ型の祭政統治をしていた」という仮説を持っている。
いろいろな文献のおかげもあって、「鉄の女」的ではない女性リーダー像は馴染み深い。
でも、そうではない方々から見ると、剣士で、為政者で、戦闘部隊のリーダーというのはとても男性的な側面で、ナウシカも『ベルサイユのばら』みたいに「頑張って男らしく振舞っている女」に見えるのかもしれない。

そんなこんなで、男らしさとか女らしさなるものに疑問が出てきたので、漫画版ナウシカに出てくるキャラクターをプロットしてみることにした。
横軸は男・女、縦軸に人間性と非人間性。(ナウシカは、蟲とか動物とか巨神兵とか人造生命体とか、いろいろ出てくるからね)
映画版しか見たこと無い方には、見慣れない名前がたくさん並ぶけれど、見知った名前でおおよその見当をつけていただきたい。

画像1

うーん、平面で表すのって、難しい!
ちなみに、男らしさの度合いは、ユパ様を超えた左側あたりは「女の人との共感の難しさ」という基準でこんな風に置いてみた(笑)
ユパ様は十二分に男らしい。
けれど、女性の心を察知してケアするのも得意なのだ。
アスベルやクロトワさんは、その辺は今ひとつな気がするけど、「そこが可愛いの!」という女性読者もいるよね。
(それで言うと、ミラルパは僧官殿よりは女性寄りでもいいのかも……?)

ナウシカやクシャナは、中央軸の近くに置いている。
でも、私は、この二人はけして中性的ではないと思っている。
とても女性らしい行動と、とても男性らしい行動と、いろいろあるので、その平均値としての全体の印象でプロットすると、中央軸に近くなる感じ。
それはいったいどういうことかと申しますと。

画像2

こんな感じです。
同じ軸の中に、ナウシカの行動を落とし込んでみた。
(下半分は、クシャナも同じくらい横幅ひろく分布するんじゃないかな)
漫画版の中で「こりゃあ、おどろいた。女のガンシップのりとは前代未聞だぞ」というセリフがある。
人口が減り続けている世界なので、子どもを産める世代の女性は超貴重。
それを戦闘に送るというのは異常なのだ。
王族でなければあり得なかったし、それでもよほどの異常事態。
ナウシカは族長のジルに他に子がいなかった(全員、育たずに死んだ)から、クシャナは父や兄への復讐のため、王族として戦闘に身を置くほかなかったのだ。
この世界のジェンダー観として、ある種最も男性的である戦闘機乗り。
ナウシカは、それになった。
その一方で、育てたり、育てたり、悩んだり、育てたりと、いろいろ女の子らしい行動もある。
ナウシカは男性性も女性性も持っていて、どちらの性も行動に顕れている。
でも、人間は本来そういうものだ。誰でも両方持っている。
ナウシカはそれを思い出させてくれる、雌雄同体性ヒロインなのだ。

前回の「鏡」理論からすると、ナウシカのどういう行動に共感あるいは反発するか、自分の内側にあるものを感じてみると、結構面白いかもしれない。
既読の方は、「そんなエピソードあったっけ???」と思うような、自分の記憶に残っていない部分を、もう一度読みながらチェックしていくと何度でも楽しめるし、新しい自分の発見になる。
特に、「何が見えていて、何が見えていなかったのか?」は、自分がどんな風に世界を見ているのか、そのヒントになる。
私は、読書会に参加させてもらって初めてわかった。
私は、これまでこの物語を男性・女性という視点を持って読んだことが無かったこと。
(女性キャラがこんなに少ないなんて、初めて知った……)
そして、私が、ナウシカというキャラクターを見る時に持っていた軸は、男女ではなく、人間性と非人間性であること。

というわけで、次回テーマ「人間性って何ですか?」へ続きます。

2019.09.04

⇒ ナウシカを読む その3-人間性ってなんですか?-


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?