祖父の代からの家業を引き継いだ私がやったこと、やめたこと 04
規模拡大のためのM&A
2020年。依然としてコロナ禍は続いていましたが、先のような覚悟(3年凌げば何とかなる)を決めたこともあって、前に進む気力もまた少し取り戻し始めていました。
同じ年、ある取引先から年間売上の25%にあたる大型受注がありました。過去に例を見ない大きな案件でした。製作期間や生産能力を含め課題は多かったのですがやり遂げねばなりません。継続的な取引も考慮すると今回を凌ぐだけではなく、今後をみすえた設備投資の検討を行う必要がありました。
設備投資には費用がかかります。人も集めねばなりません。採用は大変ですが、育てるのもまた大変な時間がかかります。やるにしても一筋縄ではいかないと感じていました。
一つのアイデアとして、M&Aで地元(東北)の工場を買収すればこの解決になるのではないかと思いました。父は以前に、地元の下請け工場の経営が悪化した際に設備と社員ごと買い取った経験を持っていました。私はまだ入社していませんでしたがその話は聞いていましたし、当時の社員もまだ何名か残っていました。企業買収というとなんかハゲタカのような印象もありますが、企業と従業員の存続を目にしていた私は決して悪いイメージを持っていませんでした。
後継者問題に悩む工場や中小企業は多いはずです。コロナ禍で経営に窮する会社もこれからは少なくないだろうと考えました。廃業しようとしている会社を買収すれば、設備と人材の拡大は一度に解決できるかもしれない。彼らにとっても仕事が継続できるのであれば良い話になるかもしれない。
そう考えた私はまず専門家に聞こうと思いました。
いろいろなM&A仲介会社から手書きのレターや面談希望の葉書が届いている経営者の方も多いと思います。
まず私はHPで調べ、ストライクや日本M&Aセンターといった大手から小さなところまで10社程度をリストアップしました。片っ端から連絡をとり、面談を依頼しました。仕事ですからどこも喜んできてくれました。
たくさんの仲介会社と会うことで、仲介手数料の相場や計算方法、合併にかかる時間や手続きの内容などを知ることができました。
私はエクセルで手数料などの一覧表を作り比較しました。全体を俯瞰できると冷静に判断できるようになります。
M&A仲介会社にも得て不得手があることもわかりました。東北地方は苦手であるとか、製造業を得意としているとか各社にも特色があります。人的リソースの問題もあるのでしょう。小さいところは特にそうした傾向が強く感じました。
そしてほとんど会社が成約のある段階に至るまでは、費用がかからないということもわかりました。いくつかの会社に実際に会社を探してもらうように依頼を行いました。
ただやってみると工場の買収は想像以上に難しいものでした。
コロナ禍で廃業になる工場があるのではという思惑に対して、現実にはなかなか見つかりませんでした。
仲介会社は買収金額が小さいケースでは仲介手数料も最低料金となります。彼らの立場からすれば、同じ手間なら金額の大きな仲介を優先するわけです。たまたま見つかれば紹介はしてくれますが、必死に探し出して提案してくれるわけではなかったのかもしれません。
中小企業の場合、仲介会社に依頼するというよりは地元銀行に先に話がいくケースも多いようでした。地元銀行にも声をかけていましたが、なかなか話はありませんでした。
一方で仮に買収先が見つかった場合、先が見えないこの環境下で新たな負債を抱えて事業拡大することが本当に正しいことなのか?と悩んでいる自分もいました。
2021年になってもコロナ禍は続いていました。
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