ショボ・トラップ

先日、珍しく休日出勤があって、その代休として、なんでもない日に休暇をとった。

特に誰かと会う予定があるわけもなく、ちょうど「キングダム」の実写映画の最新作が観たかったので映画館に行くことにした。


郊外の映画館には大体駐車場があり、映画を観ると○時間まで無料になる、というのがお決まりのパターンだ。車で行こう。


平日休み、先月納車したばかりのマイカーでドライブ、観たかった映画を観に行く、という、役満のような休日である。


キングダムの内容はめちゃくちゃ良かった。原作とはまた違う良さがあって、前作に続き満足度の高いものであった。しかし今回の本題はそこではない。


映画を観終えて、地下にある駐車場へ移動している際、外の景色が見えた。

とんでもない雨が降っている。


車とはいえ、さすがにこの雨の中を帰るのは少し危険だと思った。


その映画館にゲームセンターが併設されていたので、時間は潰せる。駐車場はもう少し利用しても無料の範囲内だし、雨の振り方から察するにおそらく少し待てば弱まる。

ゲームセンターを物色しながら、雨宿りをしようと判断し、ゲームセンターのあるフロアに移動した。


かなり大きなゲームセンターの入り口には、おなじみの「1番しょぼいゲーム機」がある。


「1番しょぼいゲーム機」で伝わるだろうか。ドーム状になっていて、小さなお菓子をシャベル状のアームですくうゲームだ。

このゲームセンターの「1番しょぼいゲーム機」は賑わっていた。


なんと、1回10円でプレイできるのである。


昨今のキャッシュレスの波はゲームセンターにも及んでいて、電子決済でプレイできるゲーム機が増えている。そのため、1回100円という枠にとらわれず、小刻みな価格設定が可能になったのだと思われる。

今までの100円で、10回もプレイできる。

せいぜい1回2-3個しかとれないが、今までは100円で2-3個だったのが、20-30個になるということだ。

ゲームセンターのゲームはどれも得意でない私だが、これなら元を取れそうだ。


試しに50円払い、5回プレイしてみる。

ああ、この感じ久しぶりだな、と思いながら軽い手つきで「1番しょぼいゲーム」をプレイする。


あっという間に5回終わってしまった。


取り出し口を覗くと、おおよそ一掴みでは取り出しきれなそうな量の「ぷっちょ」が落ちていた。


なんだこれ。楽しい。


すっかり良い気持ちになった私は、その後も夢中で「ぷっちょ」を乱獲した。


持ち帰り用の袋に、見たことない量の「ぷっちょ」が溜まっていく。

小袋の「ぷっちょ」だけでなく、コンビニやスーパーで売っているような、約10個綴りになっている棒の「ぷっちょ」も落ちた。


なんて気持ちいいんだ。


あっという間に500円、50回プレイしたところで「そろそろ帰ろう」と思った時、隣でプレイしていた女性の元に1人の少年が、大きなぬいぐるみを持って駆け寄ってきた。


女性はその少年の母親で、ぬいぐるみは父親が取ってくれたもののようだった。

おそらく子どもが父親を連れてクレーンゲームに熱中している間の時間で、手が空いた女性が暇つぶしに「1番しょぼいゲーム」をやっていたのだろう。


その光景を見て初めて私は「しまった」と思った。


クレーンゲームのような大きな景品のゲームは、よほど上手い人でもない限りなかなか取れない。

大人になるまでの過程の中で、人はクレーンゲームを「ハイリスクハイリターンの賭け」であると理解し、忌避するようになるのである。

一方、1回10円となった「1番しょぼいゲーム」は、ローリスクで、かつそこそこのリターンが期待できる、堅実な賭けだ。


キャッシュレス、暇つぶし、現実な賭け…



この「1番しょぼいゲーム機」、確実に大人を狙ってきている。



そんなことにも気づかず私は、500円という、昼食1回分にも上る金額を「1番しょぼいゲーム機」にこそぎ取られてしまった。


もう一度持ち帰り用の袋に目をやると「こんな量、誰が食べるんだよ…」という量の「ぷっちょ」が、私を嘲笑うように袋の中を満たしていた。




その日の帰路、車の中で早速「ぷっちょ」を食べた。


久しぶりに食べる「ぷっちょ」は、案外美味しかった。



純粋に美味しかったのか、美味しいと思わないとやっていられないという感情だったのかは分からない。


おわりに

今週はおリンが担当しました。

「ぷっちょ」は、親戚が集まる親の実家に持って行って放流しました。

その後のことは知りません。


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人間関係苦手、将来不安、でも野心はどこかにある…そんな思春期(Adolescent)の側面を持ちながら年齢だけを重ねた「おリン」と「生糸」がPodcast番組をお届けするスタジオ(Studio)、それがADOLESTUDIO、そういう感じです。

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次回は生糸が担当の予定です。お楽しみに…!

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